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湖白庵諸九

『諸九尼句集』

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天明6年(1786年)1月、『諸九尼句集』刊。

諸九尼句集   上

   春 之 部

梅かゝは睡りを誘ふはしめかな

みちのくにおもむく時、都の人々に名残をおしみて

山吹や余波は口にいはねとも

春雨や花咲ぬ身は寐てくらす

   夏 之 部

あるしなる人、五月十七日たそかれ過るころ、座を組て辞世の一句を残し、ねふれるかことく終をとられけるに、夢うつゝともなくふししつみて

暮六つは其暁歟ほとゝきす

鴫たつ沢 の庵をおとつれけるに留守なりけれは

鴫の聲なくて恨や麦の秋

床の山 にてはせを翁のことの葉をおもひ出て

かんこ鳥の聲も寐ほれて床の山

卯の花に傾く軒や不破の関

柴屋寺宗長法師の庵の跡をたつね侍りて

閼伽棚に春やむかしの夏花摘む

深川芭蕉堂再興の比、百韻の巻頭をすゝめられて

葺かへて今やむかしの菖蒲草

    蓼太 のぬしの催にて角田川に舟逍遥す
   かの 梅若丸の塚 をとひて

幟たつ比木母寺の猶あはれ

    武隈の松 にて

風薫るまつやいつれを想夫恋

   鎌倉にて

白浪のうねうね黒し初かつを

    熱田宮 法楽

垢離とりてけふは涼しくなるみ哉

   大井川越る日は、川越なといへるものにた
   すけられて旅の愁におそろしさをさ
   へとりそへ侍りて

凉しさのあつさにかはる淵瀬かな

   今の 落柿舎のぬし とゝに、つくしへまか
   りける時、安藝のいつきしま にて

千畳に一畳凉し肱まくら

諸九尼句集   下

   秋 之 部

送り火やとゝくにしても水の泡

   うかれ女の情をおもふ

朝皃やいなせた跡の夢に咲

    清水なかるゝ柳 を尋て

落し水に誘はれて散る柳かな

   行脚の頃

宮城野や行暮すとも萩かもと

明る夜やまたなかゝれと鳴いとゝ

   姫こせのあつまりたるに、うちましりて

月今宵おにこもるへきおくもなし

   櫛けつることのむつかしけれは、さまをか
   え侍りける時

剃捨て見れは芥や秋の霜

   冬 之 部

おもひ羽やほしては鴛鴦の又ぬらし

夢の間につい皺のよるふすま哉

ひそやかに鼻うちかみて御佛名

誠らしき梢も見えて小春哉

諸九尼續發句集

   参河の 八橋

畦道を蜘手にきつゝかきつはた

   みちのくの 信夫摺の石 のもとにて

汗なからしのふすらはや旅ころも

いつとなくほつれし笠や秋の風

    松 島

嶋々や松の外にはわたり鳥

諸九尼續發句拾遺

世を捨てて見る分別や山桜

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