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常世田長翠
長翠の句
海鼠かく日中
(カ)
の海のゆるみ哉
さゝ船や操綱氷る小夜あらし
『春秋稿』(第二篇)
白雲の月におくるゝこよひ哉
汐やみつ遠浅もどる月の人
春秋庵に借瓶してやゝ貧に慣たり
炭買いに瓢たゝきて出しかな
春の草むしらで門に蝶まけむ
かしらやむ夜もかたごゝろ杜宇
(ほととぎす)
いけ鯛やうき木のごとき筌すゞし
『春秋稿』(第三篇)
芭蕉葉に風ひと癖の夕かな
『安佐与母岐』
杉の香やうつゝさくらに箸をかむ
『春秋稿』(第四篇)
春風に桶とぢて居る山辺かな
汐いりの米くふ浦や霧ふかき
鶏頭に啼終りたるやぶ蚊かな
ながめ入て紅楓
(もみぢ)
にむねのすきし哉
『春秋稿』(第五編)
露は霜と降かはる葛の葉毎哉
『葛の葉表』
にじの根の湖にいりたり秋の海
虫歌観音堂
俳額
雨はるにさだまりてころもふたつかな
『春のおとずれ』
水仙に琴の稽古ハ二の間かな
『華鳥風月集』
時雨しと浦人申くもりかな
『潮来集』
月かけや巣のうちよりの友千鳥
『此まこと』
鷹飼か刀かつぎよ夕やなき
『関屋帖』
筑摩河
ちくま河春ゆく水や鮫の髄
『水薦苅』
散はづ
(ず)
の花は朝から散にけり
『花供養』
稗苅のくれて狐に喰れ鳬
『春秋稿』(第六編)
しら雪や寐しぬはかりに夜の人
『はなのつと』
人の柳うらやましくも成にけり
『松の炭』
梶の葉や三粒降ても星の雨
『春秋稿』(編次外)
闇の雪ものゝ影より見えてふる
『
俳諧
百家仙』
冬の夜やはなしの先の火の明り
『春秋稿』(第七編)
よしみつ寺
にて
朝心木草になれとねかひけり
『黒祢宜』
梅の月だまつて居てもよき夜也
『さらば笠』
梶の葉や三粒降ても星の雨
『波羅都々美』
雪雲の吹つけられし筑波かな
『ななしどり』
ひはり啼洗馬の宿引我をひく
八幡山
金毘羅神社
俳額
正月の柳は寒き手本哉
『寢覺の雉子』
国のとなりに松島をもちて
やる文も年のいそぎやみちのおく
『物の名』
散花のあたりはなれぬ月夜かな
『つきよほとけ』
燈籠や畳の上も盆の闇
ちがや野や松にすはるゝ春の水
『鶴芝』
雪の日や膝に子を屋角力取
『風やらい』
松島のはつ日を産し朝日哉
『はたけせり』
桐の木に時鳥のかげたる月夜哉
『有磯蓑』
うやむやの関
ひやひやと見ゆるは秋の葎かな
『頓写のあと』
春雨にぬれたる芥子の莟
(つぼみ)
哉
『続雪まろげ』
鶯の寝ところ見たりしのふ山
『おくの海集』
朝顔もさかぬに旅のわかれかな
『くさかね集』
象潟は昼の露みる所かな
『繋橋』
行夏や草をほりても温泉の匂ひ
『古今綾嚢』
翌日よりもきのふ床しや若楓
『続草枕』
秋の風ゆくへは星の林かな
『物見塚記』
鹿の尾に短夜の月かゝりけり
『
俳諧
道中双六』
馬おりん菫の花のむらさき野
「泉徳寺俳額」
蚊の中に立すてゝある灯
(ともし)
かな
『なにぶくろ』
夜の鷹鈴粉をさして淋しひか
『信濃札』
我ための夜の柱や高燈籠
『七番日記』(文化11年正月)
五十年柳くゝらぬ春もなし
『青かげ』
霜枯の市に持出す戸板かな
『的申集』
象潟は昼の露見る処かな
『小夜の月』
かりの世としるや巣にしぬ鳥もなし
『阿夫利雲』
風はやしより羽乱るゝ磯の雁
『春秋稿』(第八編)
凩のかくりと居ては雁のなく
『わすれす山』
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