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横田柳几
『布袋庵句集』
(柳也編)
寛政6年(1794年)、横田柳几の七回忌に柳也が追善集『春眠集』の付録として編集。
尾城下巴雀 の恵方菴に招れて
うくゐすのこゑをしるへに恵方庵
江都
麦阿
先生の頭陀とゝめて
草も木も皆靡かせていかのぼり
近江の
雲裡坊
に訪ハれて
雲水の名は猶高し鳳巾
水へ來す空にもおかす朧月
舵取のよけあふこゑやおほろ月
庭鳥の臼にねふるや春の雨
出る事ハしらぬ神鳥や春の雨
雲雀
雲に消麦にきえたる雲雀哉
老ゆくもわすれてうれし初桜
鳴海千代倉氏 蕉翁の笈を拝して
此笈や今月花のうしろ楯
いせの西行谷芭蕉翁
槿塚
にて
長き日や凋まぬ石の木槿塚
鹿島
要石
にて
陽炎ハ目にこそゆるけかなめいし
あさかの沼
にて
かつみとは猶おほつかな花あやめ
越後の十日町桃路亭にて
来て見れは牡丹半ハや十日町
二十余年をへて草庵を東都
鳥酔
に尋られて
ちかつきは老木はかりそ杜宇
名古屋
暁台
に
巣をかしたあるしハ老て子規
蜀魂辞世有
鳥酔
を悼
ほとゝきすこちらハ跡に老を啼
仙台止鳥庵にて
止らぬ鳥なし庵の夏木立
奥州
実方の塚
にて
下やミや長き夢路の哥まくら
出羽
羽黒山
にて
した闇を集て凄し羽黒山
奥へ旅立尾の
暁台
に
諷ハせる発句残せよや田うへとき
壷の碑
石ふミを水にもうつせ田草取
豆腐さへもたる手置を氷室かな
美濃の国廉元坊にて
冬の橋渡り来て汲む清水哉
那須野
殺生石
にて
石暑し指さへさせぬ真昼中
湯殿山
にて
雪踏て暑き泪の湯殿かな
野原村
文殊寺
にて
虫干や知恵さまさまの紬もの
越後
出雲崎
の眺望
此浦の相手や佐渡に雲の峯
松島きさかたへ尾の白尼と旅立とて
島渡る翅に涼し笠二蓋
松島
にて
涼しさの浪に笑ハぬ島もなし
日光山
にて
秋風の薫るや瑠璃の宮はしら
裏見の滝
にて
すゝしさの裏見出しけり滝の奥
上野沼田迦葉山にて
夏寒し花も完爾と迦葉山
下総境河岸箱島氏にて
(か)けて聞頭陀の碇やほとゝきす
伊賀の桐雨か
蓑虫菴
にて
聞に来たみのむし庵や麦の秋
壇の浦
にて
短夜や芦間の夢の平家蟹
須磨
にて
須磨寺や葉桜見ても竹見ても
周防岩国
錦帯橋
にて
中絶ぬ帯の橋あり雲の峯
讃岐
金毘羅山
にて
牙ほとに三日月涼し象頭山
安芸
厳島明神
にて
香の囿の回廊涼し波涼し
柳居
先生を草庵に留て
蕣や其手も杖も引とゝめ
稲妻や捨子のあたり立さらす
信州
寝覚の床
にて
啼にけりねさめの床の片うつら
鹿島詣
息栖
にて
鶺鴒や女瓶男瓶のおしへとり
名月や松のよし野は唯一夜
忍ひ人にまた寝ぬ寝ぬのきぬた哉
象瀉
にて
蚶瀉
(潟)
や唐絵の中を秋の空
最上川
にて
鵲は渡さし船の最上川
信濃
御さ山
にて
吹よせて穂屋にむすふや糸薄
下総の
真間
にて
継橋や今は尾花の波も越す
東都
白兎園宗瑞
を送る
昼寝してこされ蚊屋釣草の中
信州
善光寺
にて
蓮の実や爰を飛事遠からす
夕暮をこらえこらえて初しくれ
三日月のかたいてこほす時雨かな
山々の酔醒寒しはつしくれ
音のある草をちからや初時雨
鎌倉
光明寺
にて
猟師まて誓ひの網の十夜哉
深川
長慶寺
芭蕉忌に
はせを忌の頓写に枇杷の花咲ぬ
芭蕉千句塚の碑
を造立し百回忌の法莚の取越し営侍りて
はせを忌に百とせ運ふ時雨哉
尾陽
暁台
を送りて
その国の目には短し大根引
今往う往うとて巨燵かな
羽二重は立ても恥ぬ紙衣かな
寒菊の屋根に奢はなかりけり
横田柳几
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