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俳 書

『卯辰集』(北枝編)


元禄4年(1691年)4月、刊。

北枝 は蕉門十哲のひとり。加賀金沢の人。通称は研屋源四郎。刀研ぎ商。

卯辰集巻第一

   

日の春をさすがに鶴の歩
    其角

けさの春は李白が酒の上にあり
    杉風

  
東君また身の耻ゆるしたびにけり
   秋之坊

   湖水のほとりに春を迎へて

薦を着て誰人います花の春
   翁

はる立やさすが聞よき海の音
    牧童

四日には寐てもや春の花心
   北枝

正月やかならず醉て夕附夜
   万子

   越中の國 卯坂の神祭 の事におもひ
   よりて

卯杖とはうさかの神の切にけん
    句空
 大津尼
しら雪の若菜こやして消にけり
   智月

    木曾義仲の塚 に詣で

  
雪消えてあはれに出でし朝日哉
   智月

   春さむきとし

にがにがしいつ迄嵐ふきのたう
    宗鑑
  尾張
さりながらむめにはじまる月夜かな
    野水

  江戸
鴬やうは毛しほれて雨あがり
    曾良

雲雀より上に休らふ峠かな
   翁
 山中少年
糸きれて蛸はしら根を行衛哉
    桃葉

四方より花吹入れて鳰の海
   翁

   元禄三のとしの大火に庭の櫻も
   埃りになりたるを

焼けにけりされ共花はちりすまし
    北枝

肌のよき石に眠らん花の山
   路通

   草 庵

おもしろや海にむかへば山櫻
   句空

   芳野にて花のちりけるを

錫杖よ心つくしのやまざくら
   同
越中いなみ
水鳥の胸に分ゆく櫻かな
    浪化

  江戸
蠶がひする人は古代のすがたかな
   曾良

   初瀬にまふづとて

空大豆の花に初瀬の道もなし
   句空

   西大寺にて

木々は藤春の柳を尋ける
   同
  大津
此儘に罪つくる身の日は永し
   乙州

卯辰集巻第二

   

   ふもとの里を見おろして

衣がへせしや綿ほす谷の家
    句空
  山中
麥の穂や芍藥埋む里の背戸
   自笑

   石山のほとりにかりなる庵をしつ
   らひて

先づ頼む椎の木もあり夏木立
   翁

   しのぶもちずりの石は、みちのく
   ふくしまの驛にありて、往來の人
   の、麥くさを取りて、この石をこ
   ゝろみけるを、里びとゞも心うく
   おもひて、此谷にまろばし落しぬ。
   石の面はしたざまにふしたれば、
   今はさるわざする事もなく、風雅
   の昔にかはれるをなげきて

早苗つかむ手もとや昔ししのぶ摺
   翁

   中將實方の塚は、みちのく名取の
   郡笠島と云所にて、道より一里ば
   かり侍るといへど、雨しきりにふ
   りて、日もくれかゝりければ

かさ島やいづこさ月のぬかり道
   翁

   僧の 路通 、おもひたつ心とゞまら
   ざりければ
  尾張
さみだれや夕食くふて立出る
    荷兮

まゆはきを俤にして紅の花
   翁

   無常迅速

頓てしぬけしきも見えず蝉の聲
   翁

卯辰集巻第三

   

   越中に入りて

早稲の香や分入る右は有曾海
   翁

赤々と日はつれなくも秋の風
   翁

宵闇や霧のけしきに鳴海潟
    其角

   翁へ簔をおくりて

白露も未あら簔の行衛かな
    北枝

   野田の山もとを伴ひありきて

翁にぞ蚊屋つり草を習ひける
   北枝

    多田の神社 にまうでゝ、 木曾義仲
   の願書并實盛がよろひ・かぶとを
   。三句

あなむざん甲の下のきりぎりす
   芭蕉

幾秋か甲にきへぬ鬢の霜
    曾良

くさずりのうら珍しや秋の風
   北枝

   山中の温泉にて

子を抱いて湯の月のぞくましら哉
   北枝

月見する座にうつくしき貌もなし
   翁

   翁の捨てゆく庵に行きて

蓮がらの猶こそこそと行衛哉
   乙州

猪もともに吹るゝ野分かな
   翁

    松岡 にて翁に別侍し時、あふぎに
   書て給る

もの書て扇子へぎ分る別哉
   翁

 笑ふて霧にきほひ出ばや
   北枝
となくなく申し侍る

   山中十景 高瀬漁火

いざり火にかじかや波の下むせび
   翁

行秋のさてさて人をなかせたり
    越人

卯辰集巻第四

   

   伊賀へ歸る山中にて

初しぐれ猿も小簑をほしげ也
   翁

葉茶つぼやありともしらでゆくあらし
    宗因

    宗祇 十三回忌

地ごくへは落ちぬ木の葉の夕べ哉
    宗鑑

   元禄二の秋、翁をおくりて 山中温
    に遊ぶ 三両吟

馬かりて燕追行わかれかな
   北枝

 花野みだるゝ山の曲(まがり)
   曽良

月よしと相撲に袴踏ぬぎて
   翁

 鞘ばしりしをやがてとめけり
   北枝



元禄四年卯月日

賀陽庶人北枝

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