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服部嵐雪



『其袋』(嵐雪 編)

元禄3年(1690年)6月、嵐雪 自序。

其 袋 春之部

   都ちかき所にとしをとりて

薦を着て誰人います花の春
   芭蕉

元日や晴てすゞめのものがたり
   嵐雪

   (睦)月のはじめのめおといさかひを、
   人々に笑はれ侍りて

よろこぶを見よやはつねの玉はゝ木
   嵐雪

若菜摘跡は木を割ルはたけ哉
    越人
伊勢一有妻
氷消て風におくれそ水車
    その

   涅槃会
  
天人も泣皃わろしねはん像
    已百

   思夜桜

夜あらしや大(太)閤様の桜狩
   その

うつくしき顔かく雉子の距(ケヅメ)かな
    其角

   海 苔

ゆく水や何にとゞまる海苔の味
   其角

   猫ぬすまれて
  嵐雪
猫の妻いかなる君のうばひ行
   妻
  近江
黒きものひとつは空の雲雀哉
    李由

   上 巳

綿とりてねびまさりけり雛の皃
   其角
  伊勢
うらゝさや田の中けぶる溜水
   一有

うごくとも見えで畑打男哉
    去来

   蛙

減賓のこゝろしらずや鳴かはづ
   野水

   藤

風なくてしづか過たり藤の花
    杉風
  
とても世を藤に染たし墨衣
    宗派

   神 祇

   うす井権現にて

稲妻にけしからぬ神子(みこ)が目ざしやな
   嵐雪

   住吉奉納千句巻軸

ふるかれや神楽拍子に神楽声
    路通

其 袋 夏之部

   更 衣

名聞をはなれずもあり更衣
    露沾

   待乳山の社頭に雨を凌て

空は墨に画龍覗きぬほとゝぎす
    嵐雪

   瓜

水飯にかはらぬ瓜のしづく哉
    其角

犬に迯<ニゲ>犬を追夜のすゞみ哉
   嵐雪

   清水 附 心太
  大津
かたびらは浅黄着て行清水哉
    尚白

夕だちのまたやいづくに下駄はかん
    鬼貫

   素堂の蓮見にまかりて

田畠の辛苦<ホネオリ>もなきはちす哉
   已百

   ばせを(う)の別に
  大津
夏衣妹笠ぬふ(う)てまい(ゐ)らせよ
   尚白
  尾花沢
やさしさや龍巻のこす花あやめ
    清風

   善光寺にてみる喰尼に

見る房やかゝれとてしもの寺の尼
   嵐雪

   しらすかの宿をとを(ほ)りたれば、中鯵とよばひ
   売けり。此魚うりのその中をとりけるもお(を)
   しくて、其うをゝ呼て見たれば、げにも大小
   の中にはんべるをさかなにして

よの中をしらすかしこし小鯵売
   其角

    めぐろの滝 も人のまふ(う)でぬ日

底清水心の塵ぞいづみつく
   嵐雪

   駕籠かきの旦那旦那といふに聞あき侍りて

馬士<ムマカタ>に貧きはなし雪の宿
   其角

春ル三月団子ぬくらんうつの山
   路通

によつぽりと秋の空なるふじの山
    鬼貫

   大和見にまかでさぶらふとて、「つばくらに
   しばしあづかるやどり哉」といへるに、我も
   猫に別お(を)しみて
  伊勢
ちぎり置つばめとあそべ庭の猫
   園女

   卯月朔日 当麻 にまふ(う)でゝ、まんだらをお(を)
   がみ侍りて

衣更みづから織らぬつみふかし

    さる沢 にて

水若葉かつぎ着て来し人の影

そでかけてお(を)らさじ鹿の袋角

    法隆寺

二王にもよりそふ蔦のしげり哉

   北国何トヤラいふ崎にとまりて、所の
   夷もおし入て、句をのぞみけるに

文月や六日も常の夜には似ず
   ばせを
     (う)
   その夜北の海原にむかひて

あらうみや佐渡に横ふ天川


   名月は敦賀に有て

名月や北国日和さだめなき

   気比の宮へは遊行上人の白砂敷ける古例あ
   りて、この比もさる事有しといへば

月清し遊行のもてる砂の露

   浅水のはしを渡る時、俗にあさうづといふ。
   清少納言の橋はと有一条、あさむつのとか
   ける所也

あさむつや月見の旅の明ばなれ

   同じ野中より、駕籠にかきのせられて
  伊勢
手を延て折行春の草木哉
    園女

其 袋 秋之部

星合やいかに痩地の瓜つくり
    其角

ほし合に我妹かさん待女郎
    嵐雪

名月や歌人に髭のなきがごと
   嵐雪

       素堂 亭にて人々十日のきく見られけるに

かくれ家やよめ菜の中に交ル菊
   嵐雪

      寄芭蕉翁

   こぞのこよひは、彼菴に月をもてあそびて、こし
   の人あり、つくしの僧あり、あるじもさらしなの
   月より帰て、「木曾の痩もなだなを(ほ)らぬに」など
   詠じけらし。ことしも又月のためとて庵を出ぬ。
   松しま・きさかたをはじめ、さるべき月の所々
   をつくして、隠のおもひ出にせんと成べし

此たびは月に肥てやかへりなん
    素堂

   野 分

小(大)はら女や野分にむかふかゝへ帯
    その
  加賀
いそがしや野分の跡のよばひ星
   一笑

   伊勢の国に修行しける頃、関の地蔵とかや
   にとまりたるに、宿に橘のさかりなりけれ
   

宗長 法師

橘のかにせゝられて寐ぬよかな

   これらも猶俳諧のまくらにはあらずかしと、
   小野を過ける頃

角もじやいせの野飼の花薄
    其角

   おなじくいせの国出るとて

はまぐりの二見にわかれゆく秋ぞ
   芭蕉

   薄

はづれはづれ粟にも似ざる薄哉
    その

立いでゝうしろ歩や秋のくれ
   嵐雪

   蕎麦 読甲陽軍鑑
  
あらそばのしなのゝ武士はまぶし哉
    去来

川音につれて鳴だすかじか哉
    団友

其 袋 冬之部

   讃大黒

神の留守能<ヨイ>女房を守べし
    嵐雪
  伊勢
一すじ(ぢ)に凩や世のこゝろばせ
   一有

炭屑にいやしからざる木のは哉
    其角

  
落葉たく色々の木の煙かな
    宗派

   帰 花

物すごやあらおもしろのかへり花
    鬼貫

   海 鼡

むくつけき海鼡ぞうごく朝渚
    露沾

海鼡喰はきたないものかお僧達
   嵐雪

   鰒
  伊丹住
河豚<フクト>ほど鰒<フグ>によう似た物はなし
   鬼貫
  大津
鴛の来て物潜(ひそか)なる小池哉
    尚白

珍しき鷹わたらぬ歟対馬船
   其角

   煤 掃

武蔵野や煤はきなれど富士の山
   東順

古暦ほしき人には参らせん
   嵐雪

   二月十七日神路山を出ルとて

はだかにはまだ衣更着のあらし哉
   芭蕉

   ひがみ

十月や余所へもゆかず人も来ず
   尚白

   しんく

一升はからき海よりしゞみかな
   其角

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