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俳 書

『薦獅子集』(巴水編)


元禄6年(1693年)、『薦獅子集』(巴水編)刊。 路通 跋。

住吉神社に句を奉納した記念集。

藤井巴水は加賀金沢の人。

   高砂住の江の松を古今萬葉
   のためしに引れしより塵う
   せすして連歌につたふ然る
   に此松は枝葉百間にあまり
   て諸木にことなる氣色尤俳
   諧なるべし
  江戸
蓬莱の松にたてばや曾根の松
    其角
  
立寄て我成(セイ)ひくし梅の花
    露沾
  
柴部屋を北の隣に梅のはな
    曾良
  大坂
咲花も亂より後の古ひ哉
    洒堂
  
花守や白きかしらをつき合せ
    去來
  
空腹に須磨を呑こむ鹽干かな
    史邦
  大坂
蒔石や藏の戸前の玉椿
    之道
  江戸
夏祓目の行方や淡路しま
    嵐雪

なつかしき津守の家の若葉哉
   牧童
  大津
雲の峯あまの羽衣干て見せ
   乙州
  
御祓や砂地をはしる足のうら
    丈草
  ぜゞ
熨斗むくや磯菜凉しき島かまへ
    正秀

鰯雲鯛も蚫も籠りけり
    北枝
  大津尼
御火燒のもり物とるな村烏
   智月
  
風寒き流の音や手水鉢
    素牛

住吉の隅に雀の冬籠り
    句空

御神樂や心々に聞てとれ
   巴水

   魚荷は大道を過鴉は榎にとまる
   神の鳥居にとよみけん予滑稽の
   板短尺をおもひ立都鄙遠境の佳
   句乞盡すあまりに蕉門の句とも
   をくゝりて我にあたふうつし得
   て是を舒巻し日々に清廉にすゝ
   む神慮にかなひけるよと此名を
   こも獅子と烏帽子を着せ桐の箱
   に房結んて奉納し侍りぬ于時元
   禄酉冬日加陽巴水

春もやゝけしきとゝのふ月と梅
   芭蕉

一莚ちるや日かけの赤椿
   去來
  小松
種池の底澄わたる寒みかな
   塵生

毒ための其名もゆかし春の草
    凡兆

   ねかはくは花のもとにてはる死な
   んと讀しを
  山中
西行は死まて花のこゝろ哉
    自笑
  山中
宇治川の水に臂はる蛙哉
    桃妖
  みの
雛を見に奥迄はひる男哉
    此筋
  みの
重箱や一輪挿の桃の花
   千川

   羽黒の 呂丸 はいまた若うして風雅
   の友をしたひ初て洛にのほり程な
   くなき身となりしこそ尚あはれな
   れ

國の子はわろさいふらん手向草
   智月

   旅する身の行方おもひやら
   るゝそかし

旅人の葬の供にや行胡蝶
   乙州

年々や猿に着せたる猿の面
   芭蕉
  
七種や寺の男の藪にらみ
    支考

山櫻ちるや小川の水車
   智月

   東武に志ありて白川の橋はらはら
   鷄に踏初、與市か蹴上の水にわら
   ちをしめ直すもあとゆかしく

鈴かけをかけぬはかりの暑哉
   史邦

   芭蕉の舊庵 木曾塚 にて史邦に別る
   ゝの二首

宵寐して凉しくあゆめ朝のうち
   智月

   路通西國旅寐も去年今年と
   立歸り文來りしを發句して
   返す

其まゝにあれよ凉しき骨海月
   智月

   伊勢の 園女 にあうて

雲の嶺心のたけをくつしけり
   路通

   武江より上るに南江とかや
   いひし茶やに宿りしか其夜
   白雨しきつて前後の百川徃
   來留りぬ明れは空にくけに
   てりわたり晝貌の眠りもさ
   やうやうし鳥にさめ旅は葎
   もをかしく相客の與かる雜
   談盡果けれは

國々の咄し續きやかんと鳥
   乙州

   との葉の紅葉はかふもこさ
   らふか

なふなふなふそなたの事か花薄
   宗因

編たして椽先淺し小萩原
   曲翠

   いろの濱に誘引れて

小萩ちれますほの小貝小盃
   芭蕉

   蕉門をまねきて

明月や後は誰着ん檜笠
   園女

鎖あけて月さし入よ浮御堂
   芭蕉

きりきりす鳴やかゝしの袖のうち
   智月

   深川いつれの庵主とかや。此句を
   得て他にかたくあはすと旅僧の語
   り捨て通る。

蕣や晝は鎖おろす門の垣

    木曾塚 より歸るとき
  名古屋
蓮の實の唯つゝほんとぬけにけり
    越人

渡り鳥鳴は古郷の咄かや
   丈草

   風雲あつまりやすく又去や
   すしかからす難波にとゝま
   りしに空能坊尋來られけれ
   ば枕を破窓にならべて物が
   たりする事六十日秋風たち
   て行末の旅おぼつかなけれ
   と此度は木曾路をへて 寐覺
    の床 の鹿の聲をなむとすゝ
   まれけるまゝにとかくして
   別れぬ

うらやまし君が木曾路の橡の粥
   路通

紫の花の亂やとりかふと
   素牛

    しのはらの古戰場 にて

笹蟹のくんて落たる一葉哉
   乙州

ひごろにくき烏も雪の朝哉
   芭蕉

はきちぎる八疊敷の寒さ哉
   去來

月花の愚に針たてん寒の入
   芭蕉

蕎麥切の先一口や年わすれ
   宗因

暮の市誰を呼らん羽織殿
   其角

蛤の生るかひあれとしの暮
   芭蕉



   王照君か胡國の旅にかはりて
 肥後助成寺
此あつさ人の見しらぬよごれ面
   使帆
 同市眞中
ほとゝきすをのれか聲はふさからす
   長水

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