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石田波郷


波郷の句

   『鶴の眼』

  春

バスを待ち大路の春をうたがはず

大阪城ベツトの足にある春暁

  夏

日出前五月のポスト町に町に

百日紅ごくごく水を呑むばかり

  秋

吹起る秋風鶴を歩ましむ

   家兄應召、急ぎ歸郷す   三句

秋日暑車窓を覆ひひたひた歸る

直歸る秋日の艫にうづくまり

稲田照り眞向きし城へ直歸る

   『風切』

  春

初蝶やわが三十の袖袂

  夏

    明石城址    二句

汗垂れて鳶を聞くなり松隱れ

直はしる蜥蜴追ふ吾が二三足

    法師温泉にて    二句

桐の花爆音山の湯にも飛び

爆音や桐は花散り赭の殻

   卒然家郷を失ふ

椎も古りぬわれら兄妹東京に

   縁談、葛西にて   二句

葭切の夕しづもりや談了る

葭雀二人にされてゐたりけり

    伊香保    二句

六月の雨さだめなき火桶かな

(ひぐらし)や蝶のみ杉の秀をゆきて

朝顔の紺の彼方の月日かな

   吉田安嬉子と結婚   二句

露草の露ひかりいづまことかな

露草の瑠璃十薬の白繁り合へ

  秋

槇の空秋押移りゐたりけり

  冬

元旦の殺生石のにほひかな

   弟出征   二句

丈高くまぎれず征けり冬紅葉

冬紅葉父をも顧みざりけり

   「風切以後」

雀らも海かけて飛べ吹流し

   『病鴈』

雁のきのふの夕とわかちなし

   留 別

雁やのこるものみな美しき

   出發前後、雲母派の根岸見習士官と別談、歳時記、一茶
   七番日記等を贈らる

芋の秋七番日記讀み得んや

出發つや疾風の如く稲雀

春の鳩肩に頭に飼す兵ぞ

   上 陸

よろめくや白衣に浴ぶる冬日ざし

   補遺

プラタナス夜もみどりなる夏は來ぬ

   『雨覆』

  冬

坂なして橋光りたり降り出す雪

細雪妻に言葉を待たれをり

百方の燒けて年逝く小名木川

   遙なる伊豫の國幾年會はぬ母を思ふは

なみだしてうちむらさきをむくごとし

  春

立春の米こぼれをり葛西橋

早春や道の左右に潮滿ちて

はこべらや焦土のいろの雀ども

  秋

栗食むや若く悲しき背を曲げて

芋うるめあまりあらたに佛たち

雁の束の間に蕎麥刈られけり

   『春嵐』

   根岸・ 子規庵

葉鶏頭死なざりし顔見られをり

泉への道後れゆく安けさよ

   わが隣なる 志演神社 には

秋風の廢石階にわが座あり

    淨蓮の瀧

瀧の風山葵田の蝶みな白し

鶏頭の澎湃として四十過ぐ

    城ヶ島

蠅とめて島の痩麥禾ながし

磯掻に日照雨すぎけり花卯木

    深大寺

啄みてただ秋陰の烏骨鶏

鵙ひびく深大寺蕎麥冷えにけり

   補遺

    黒山三滝

七夕や梅園村は瀧に果つ

瀧は見ゆ晝寢の杣の胸の上に

瀧茶屋に少女女の膝くづす

奥瀧はカメラマン群れ裸婦ゐるらし

蜩や鑛泉焚きの一童子

   『酒中花』

墓の間に彼岸の猫のやつれけり

    北千住

ゆく春や市のはてたる魚市場

    江東歳時記 終る

葛飾に歳時記を閉づ野火煙

   青梅の地名の由るところの梅あり

機音や青梅は青蕾群れ

平林寺托鉢僧群薄暑を來

    越前堀商船大學

白南風やうつうつとして明治丸

    江戸川六丁目にて

蓮田風起ちて形代ながしかな

    神谷酒造にて

秋深み合へり巨樽通ひ樽

秋いくとせ石鎚を見ず母を見ず

    高松栗林公園

敗荷(やれはす)や旅の暇のおのが影

    屋島

秋行くとオリーブ林銀の風

黄落や覗けば屋島合戰圖

   湯 島

女男坂もろともに昏れ秋の暮

日は低し葦刈舟の水尾を染め

    西新井大師

曇りつゝ薄日映えつゝ達磨市

    千住名倉

笹鳴や骨折患者ひそと寄り

いつも來る綿蟲のころ深大寺

    宇 治

茶團子に日の當り來し時雨かな

極月の松風もなし萬福寺

普茶料理しぐるる石蕗に似て寒し

    嵯 峨

戸袋に干して落柿舎の柿二つ

去來墓双掌がくれに冷えにけり

   『酒中花以後』

人はみな旅せむ心鳥渡る

今生は病む生なりき鳥頭

   補遺

葭切や晩潮へゆく沙蠶(ごかい)掘り

   拾遺

  昭和三十二年

    柴又帝釋天門前

草餅やをぐらき方の春火桶

    小岩二丁目善養寺で

抽んでて辛夷の白や植木市

    深川清澄庭園で

木瓜褪せて庭園春をふかめけり

    西小松川二丁目で

土くれに下りて影もつ春の蝶

   小名木川驛で

小名木川驛春の上潮曇るなり

    向島百花園で

青萩に風立ちやすし百花園

    南砂町五丁目元八幡で

煤煙の濃く淡く渡る鳥もなし

    江戸川三丁目八雲神社で

笹團子梅雨の弱日のさしにけり

  昭和三十三年

    龜戸天神で

賣り切れて鷽の木彫ぞおもしろき

    深川不動尊で

前髪にちらつく雪や初不動

  昭和四十一年

   十一月二十九日 水原秋櫻子 先生藝術院会員となる

頂きに咲きてましろし冬椿

   「青砂」序句

春雷やここにも巨き一家族

    江戸川の白秋碑

紫烟草舎春を惜しまむすべもなし

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