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俳 書
『阿羅野』(荷兮編)
曠野集 巻之一 | ||
花 三十句 | ||
何事ぞ花みる人の長刀 |
去来
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酒のみ居たる人の繪に | ||
月花もなくて酒のむひとり哉
| 芭蕉 | |
ある人の山家にいたりて | ||
橿の木のはなにかまはぬすがた哉
| 同 | |
杜 宇 二十句 | ||
目には青葉山ほとゝぎす初がつほ(を)
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素堂
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月 三十句 | ||
名月や海もおもはず山も見ず |
去来
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十三夜 | ||
影ふた夜たらぬ程見る月夜哉 |
杉風
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三日 | ||
何事の見立てにも似ず三かの月
| 芭蕉 | |
雪 二十句 | ||
大津にて | ||
雪の日や船頭どのゝ顔の色
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其角
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いざゆかむ雪見にころぶ所まで
| 芭蕉 | |
京 | ||
かさなるや雪のある山只の山 |
加生
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岐阜 | ||
夜の雪おとさぬやうに枝折らん | 除風 | |
ちらちらや淡雪かゝる酒強飯(さかこはひ)
| 荷兮
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はつ雪や先草履にて隣まで
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路通
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曠野集 巻之二 | ||
歳 旦 | ||
二日にもぬかりはせじな花の春 | 芭蕉 | |
元朝や何となけれど遅ざくら | 路通 | |
しづやしづ御階にけふの麦厚し | 荷兮 | |
初 春 | ||
かれ芝やまだかげろふの一二寸
| 芭蕉 | |
暁の釣瓶にあがるつばきかな |
荷兮
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蘭亭の主人池に鵝を愛せられしは筆意有故也 | ||
池に鵝なし仮名書習ふ柳陰 |
素堂
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仲 春 | ||
うごくとも見えで畑うつ麓かな |
去来
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山崎 | ||
手をついて哥申あぐる蛙かな
| 宗鑑
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暮 春 | ||
ほろほろと山吹ちるか滝の音
| 芭蕉 | |
松明にやま吹うすし夜のいろ |
野水
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曠野集 巻之三 | ||
初 夏 | ||
山路にて | ||
なつ来てもたゞひとつ葉の一つ哉
| 芭蕉 | |
麦かりて桑の木ばかり残りけり
| 作者不明 | |
深川の庵にて | ||
庵の夜もみじかくなりぬすこしづゝ |
嵐雪
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仲 夏 | ||
この比は小粒になりぬ五月雨 |
尚白
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おなじ所にて | ||
おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉
| 芭蕉 | |
おなじく | ||
鵜のつらに篝こぼれて憐也 | 荷兮 | |
鴨の巣の見えたりあるはかくれたり | 路通 | |
撫子や蒔繪書人をうらむらん |
越人
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庵の留主に | ||
すびつさへすごきに夏の炭俵 |
其角
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夕がほや秋はいろいろの瓢かな
| 芭蕉 | |
曠野集 巻之四 | ||
初 秋 | ||
ちからなや麻刈あとの秋の風 |
越人
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秋風やしらきの弓に弦はらん |
去来
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あの雲は稲妻を待たより哉
| 芭蕉 | |
いなづまやきのふは東けふは西
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其角
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ひよろひよろと猶露けしや女郎花
| 芭蕉 | |
仲 秋 | ||
かれ朶に烏のとまりけり秋の暮
| 芭蕉 | |
しらぬ人と物いひて見る紅葉哉
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東順
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関の素牛にあひて | ||
さぞ砧孫六やしき志津屋敷
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其角
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暮 秋 | ||
荷兮が室に旅ねする夜、草臥なを(ほ)せとて、箔 | ||
つけたる土器出されければ | ||
かはらけの手ぎは見せばや菊の花 | 其角 | |
曠野集 巻之五 | ||
加賀 | ||
火とぼして幾日になりぬ冬椿 |
一笑
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仲 冬 | ||
冬籠りまたよりそはん此はしら
| 芭蕉 | |
曠野集 巻之六 | ||
十月江南天気好 可憐冬景似春美 | ||
こがらしもしばし息つく小春哉 | ||
絶聖棄知大盗乃止 | ||
七夕よ物かすこともなきむかし |
越人
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曠野集 巻之七 | ||
名 所 | ||
から崎の松は花より朧にて
| 芭蕉 | |
関こえて爰も藤しろみさか哉
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宗祇法師
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美濃国関といふ所の山寺に藤の咲たるを見て | ||
吟じ給ふとや
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五月雨にかくれぬものや瀬田の橋
| 芭蕉 | |
湖の水まさりけり五月雨
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去来
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いざよひもまたさらしなの郡哉
| 芭蕉 | |
星崎のやみを見よとや鳴千鳥
| 芭蕉 | |
旅 | ||
雲雀より上にやすろ(ら)ふ峠かな
| 芭蕉 | |
大和國草(平)尾村にて | ||
花の陰謡に似たる旅ねかな
| 芭蕉 | |
あき風に申かねたるわかれ哉 | 野水 | |
ひとつ脱で後におひぬ衣がへ
| 芭蕉 | |
さらしなに行人々にむかひて | ||
更級の月は二人に見られけり
| 荷兮 | |
越人
旅立けるよし聞て京より申つかはす | ||
月に行脇差つめよ馬のうへ
| 野水 | |
おくられつおくりつはては木曾の秋
| 芭蕉 | |
草枕犬もしぐるゝか夜るの声
| 芭蕉 | |
狩野桶といふ物、其角のはなむけにおくると | ||
て | ||
狩野桶に鹿をなつけよ秋の山 | 荷兮 | |
鳴海にて芭蕉子に逢ふ(う)て | ||
いく落葉それほど袖もほころびず | 荷兮 | |
其角
にわかるゝとき | ||
あゝたつたひとりたつたる冬の旅 | 荷兮 | |
天龍でたゝかれたまへ雪の暮 |
越人
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越人
と吉田の駅にて | ||
寒けれど二人旅ねぞたのもしき
| 芭蕉 | |
述 懐 | ||
高野にて | ||
父母のしきりに恋し雉子の声
| 芭蕉 | |
ふるさとや臍のをに泣年の暮
| 芭蕉 | |
人のいほりをたづねて | ||
さればこそあれたきまゝの霜の宿
| 芭蕉 | |
無 常 | ||
末期に | ||
散る花を南無阿弥陀仏と夕哉 |
守武
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いもうとの追善に | ||
京 | ||
手のうへにかなしく消る螢かな |
去来
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子にを(お)くれける比 | ||
似た顔のあらば出てみん一躍り |
落梧
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母におくれける子の哀れを | ||
おさな子やひとり食くふ秋の暮 |
尚白
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曠野集 巻之八 | ||
木履はく僧も有けり花の雨 |
杜国
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西行上人五百歳忌に | ||
はつきりと有明残る桜かな
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荷兮
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花に酒僧とも侘ん塩ざかな
| 其角 | |
垣越に引導覗くばせを哉 | 卜枝 | |
河原迄瘧(おこり)まぎれに御祓(みそぎ)哉 | 荷兮 | |
しばしかくれゐける人に申遣す | ||
先祝へ梅を心の冬籠り
| 芭蕉 | |
曠野集 員外 | ||
誰か華をおもはざらむ。たれか市中にありて、 | ||
朝のけしきを見む。我東四明の麓に有て、花 | ||
のこゝろはこれを心とす。よつて佐川田喜六 | ||
の、よしの山あさなあさなといへる哥を、実 | ||
にかんず。又 | ||
麦喰し鴈と思へどわかれ哉 | ||
此句尾陽の野水子の作とて、芭蕉翁の伝へ | ||
しをなを(ほ)ざりに聞しに、さいつ比、田野へ | ||
居をうつして、実に此句を感ず。むかしあま | ||
た有ける人の中に、虎の物語せしに、とらに | ||
追はれたる人ありて、独色を変じたるよし、 | ||
誠のおほふべからざる事左のごとし。猿を聞 | ||
て実に下る三声のなみだといへるも、実の字 | ||
老杜のこゝろなるをや。猶鴈の句をしたひて | ||
麦をわすれ華におぼれぬ鴈ならし | 素堂 | |
この文人の事づかりてとゞけられしを、三人 | ||
開き幾度も吟じて | ||
手をさしかざす峰のかげろふ |
野水
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深川の夜 | ||
厂がねもしづかに聞けばからびずや | 越人 | |
酒しゐならふこの比の月
| 芭蕉 | |
我もらじ新酒は人の醒やすき |
嵐雪 | |
秋うそ寒しいつも湯嫌 | 越人 |
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