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俳 書



『阿羅野』(荷兮編)

山本荷兮 編。俳諧七部集の一。

元禄2年(1689年)3月の芭蕉の序がある。

荷兮は本名山本周知、名古屋の医者。

いといふのいとかすかなる心のはしの、有かなきかにたどりて、姫ゆりのなにゝもつかず、雲雀の大空にはなれて、無景のきはまりなき、道芝のみちしるべせむと、此野の原の野守とはなれるべらし。

     元禄二年弥生

芭蕉桃青

   曠野集 巻之一

 花 三十句

何事ぞ花みる人の長刀
    去来

   酒のみ居たる人の繪に

月花もなくて酒のむひとり哉
   芭蕉

   ある人の山家にいたりて

橿の木のはなにかまはぬすがた哉
   同

 杜 宇 二十句

目には青葉山ほとゝぎす初がつほ(を)
    素堂

 月 三十句

名月や海もおもはず山も見ず
    去来

   十三夜

影ふた夜たらぬ程見る月夜哉
    杉風

   三日

何事の見立てにも似ず三かの月
   芭蕉

 雪 二十句

   大津にて

雪の日や船頭どのゝ顔の色
    其角

いざゆかむ雪見にころぶ所まで
   芭蕉

  
かさなるや雪のある山只の山
    加生

  岐阜
夜の雪おとさぬやうに枝折らん
   除風

ちらちらや淡雪かゝる酒強飯(さかこはひ)
   荷兮

はつ雪や先草履にて隣まで
    路通

   曠野集 巻之二

 歳 旦

二日にもぬかりはせじな花の春
   芭蕉

元朝や何となけれど遅ざくら
   路通

しづやしづ御階にけふの麦厚し
   荷兮

 初 春

かれ芝やまだかげろふの一二寸
   芭蕉

暁の釣瓶にあがるつばきかな
    荷兮

   蘭亭の主人池に鵝を愛せられしは筆意有故也

池に鵝なし仮名書習ふ柳陰
    素堂

 仲 春

うごくとも見えで畑うつ麓かな
    去来
  山崎
手をついて哥申あぐる蛙かな
   宗鑑

 暮 春

ほろほろと山吹ちるか滝の音
   芭蕉

松明にやま吹うすし夜のいろ
    野水

   曠野集 巻之三

 初 夏

   山路にて

なつ来てもたゞひとつ葉の一つ哉
   芭蕉

麦かりて桑の木ばかり残りけり
 作者不明

   深川の庵にて

庵の夜もみじかくなりぬすこしづゝ
    嵐雪

 仲 夏

この比は小粒になりぬ五月雨
    尚白

   おなじ所にて

おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉
   芭蕉

   おなじく

鵜のつらに篝こぼれて憐也
   荷兮

鴨の巣の見えたりあるはかくれたり
   路通

撫子や蒔繪書人をうらむらん
    越人

   庵の留主に

すびつさへすごきに夏の炭俵
    其角

夕がほや秋はいろいろの瓢かな
   芭蕉

   曠野集 巻之四

 初 秋

ちからなや麻刈あとの秋の風
    越人

秋風やしらきの弓に弦はらん
    去来

あの雲は稲妻を待たより哉
   芭蕉

いなづまやきのふは東けふは西
    其角

ひよろひよろと猶露けしや女郎花
   芭蕉

 仲 秋

かれ朶に烏のとまりけり秋の暮
   芭蕉

しらぬ人と物いひて見る紅葉哉
    東順

   関の素牛にあひて

さぞ砧孫六やしき志津屋敷
    其角

 暮 秋

   荷兮が室に旅ねする夜、草臥なを(ほ)せとて、箔
   つけたる土器出されければ

かはらけの手ぎは見せばや菊の花   其角

   曠野集 巻之五
  加賀
火とぼして幾日になりぬ冬椿    一笑

 仲 冬

冬籠りまたよりそはん此はしら
   芭蕉

   曠野集 巻之六

   十月江南天気好 可憐冬景似春美

こがらしもしばし息つく小春哉

   絶聖棄知大盗乃止

七夕よ物かすこともなきむかし
    越人

   曠野集 巻之七

 名 所

から崎の松は花より朧にて
   芭蕉

関こえて爰も藤しろみさか哉
  宗祇法師

   美濃国関といふ所の山寺に藤の咲たるを見て
   吟じ給ふとや

五月雨にかくれぬものや瀬田の橋
   芭蕉

湖の水まさりけり五月雨
    去来

いざよひもまたさらしなの郡哉
   芭蕉

星崎のやみを見よとや鳴千鳥
   芭蕉

 旅

雲雀より上にやすろ(ら)ふ峠かな
   芭蕉

   大和國草(平)尾村にて

花の陰謡に似たる旅ねかな
   芭蕉

あき風に申かねたるわかれ哉
   野水

ひとつ脱で後におひぬ衣がへ
   芭蕉

   さらしなに行人々にむかひて

更級の月は二人に見られけり
   荷兮

    越人 旅立けるよし聞て京より申つかはす

月に行脇差つめよ馬のうへ
   野水

おくられつおくりつはては木曾の秋
   芭蕉

草枕犬もしぐるゝか夜るの声
   芭蕉

   狩野桶といふ物、其角のはなむけにおくると
   

狩野桶に鹿をなつけよ秋の山
   荷兮

   鳴海にて芭蕉子に逢ふ(う)

いく落葉それほど袖もほころびず
   荷兮

    其角 にわかるゝとき

あゝたつたひとりたつたる冬の旅
   荷兮

天龍でたゝかれたまへ雪の暮
    越人

    越人 と吉田の駅にて

寒けれど二人旅ねぞたのもしき
   芭蕉

 述 懐

   高野にて

父母のしきりに恋し雉子の声
   芭蕉

ふるさとや臍のをに泣年の暮
   芭蕉

   人のいほりをたづねて

さればこそあれたきまゝの霜の宿
   芭蕉

 無 常

   末期に

散る花を南無阿弥陀仏と夕哉
    守武

   いもうとの追善に

  
手のうへにかなしく消る螢かな
    去来

   子にを(お)くれける比

似た顔のあらば出てみん一躍り
    落梧

   母におくれける子の哀れを

おさな子やひとり食くふ秋の暮
    尚白

   曠野集 巻之八

木履はく僧も有けり花の雨
    杜国

   西行上人五百歳忌に

はつきりと有明残る桜かな
    荷兮

花に酒僧とも侘ん塩ざかな
   其角

垣越に引導覗くばせを哉
   卜枝

河原迄瘧(おこり)まぎれに御祓(みそぎ)
   荷兮

   しばしかくれゐける人に申遣す

先祝へ梅を心の冬籠り
   芭蕉

   曠野集 員外

   誰か華をおもはざらむ。たれか市中にありて、
   朝のけしきを見む。我東四明の麓に有て、花
   のこゝろはこれを心とす。よつて佐川田喜六
   の、よしの山あさなあさなといへる哥を、実
   にかんず。又
     麦喰し鴈と思へどわかれ哉
   此句尾陽の野水子の作とて、芭蕉翁の伝へ
   しをなを(ほ)ざりに聞しに、さいつ比、田野へ
   居をうつして、実に此句を感ず。むかしあま
   た有ける人の中に、虎の物語せしに、とらに
   追はれたる人ありて、独色を変じたるよし、
   誠のおほふべからざる事左のごとし。猿を聞
   て実に下る三声のなみだといへるも、実の字
   老杜のこゝろなるをや。猶鴈の句をしたひて

麦をわすれ華におぼれぬ鴈ならし
   素堂

   この文人の事づかりてとゞけられしを、三人
   開き幾度も吟じて

 手をさしかざす峰のかげろふ
    野水



   深川の夜

厂がねもしづかに聞けばからびずや
   越人

 酒しゐならふこの比の月
   芭蕉



我もらじ新酒は人の醒やすき
    嵐雪

 秋うそ寒しいつも湯嫌
   越人

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