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岩田涼莵

『皮籠摺』(涼莵編)


元禄11年(1698年)5月末、 岩田涼莵 は伊勢を立つ。6月12日、江戸に着く。

元禄12年(1699年)、『皮籠摺』(涼莵編)刊。 其角 序。

皮籠は竹や籐などで編んだ上に皮を張った蓋付きの籠。

凉兎先師につく事、かの文臺の二見形に扇を畫せ、岩の面を硯として、蛤に潮を汲けん古意をとりて、千とせの杉をいだくこと、嵐も霜もふりかはれど、其名朽せざるをや、こゝに明暗をしれり。

   たふとさに皆押あひぬ御遷宮

此句をもて、宇治山田の門人等、八乙女・神樂男にいひふらせば、神樂にうたひ鈴ふりたてゝ、さいはいすといふべかめり。是この集の趣とかや。   晋子序

   六月廿日居を轉じて、竹三竿をう
   へつけたるに、頻にほころびたる
   聲あり。
晋子
竹の蝉さゝらに絞る時もあり

  泊りたふなる家の凉しさ
   凉莵



   一 折
嵐雪
齒の跡のあり葛の葉の裏表

  もとの平地へ出たる茸狩
   凉莵

  春 部

蓬莱にきかばや伊勢の初便
   芭蕉

面々の蜂をはらふや花の春
    嵐雪

元日は士つかふたる顔もせず
    去來

門松の木藥店や大袋
    木因

羽二重の心になるや華の春
    如行

人中をにほひありくや市の梅
    露川
  三州
鶯の相手をかえて椿かな
    白雪

鶯のまたれて鳴や日一日
    北枝

竹の月鶯藪と見立けり
   桃後
  名古屋
石垣につまるゝしだり柳かな
   素覧

きさらぎや火燵のふちを枕本
   嵐雪

芹つみやむかひへまはる鶴の跡
   十丈

赤いもの摘て雛の座敷哉
    諷竹

冬たつや御所柿の手にひゆる程
   沾徳
  豊後
しがらみの雪踏ちらす千鳥かな
   りん

水仙に尤づけるさむさかな
   野紅

皮籠摺 上終

  東武行

   元禄とらのことし五月のすゑ、武陵の旅に
   おもひたちて、内外の廣前にまうづ。

凉莵拜

    外宮

凉しさのまことは杉の梢なり

    内宮

拍手の袂も凉し木の雫

   各餞別

水鶏にもぬかりはあらじ旅の宿
    乙由

   團友子發足に下りあはせて

一ふしはどこへ出しても夏男
    諷竹

水無月二日 居を出て船にのるべき處へわたる。

   旅道具は一いろもむづかし。

扇から落して仕廻首途かな
   凉莵

三日

   神社を出船して、二見の朝日はな
   やか也。

かたびらや船で髪結ふ玉くしげ

   鳥羽浦

城山や飛島かけて鰹ぶね

   答志崎

    大みや人の玉藻かるらんとよみしも、この
    うらなるべし。

藻の花をかけて飛たり冠鷺

   作の嶋

    はせを翁の、 鷹ひとつみ付てうれし  と申
    されし、いらこ崎のひだりに當れり。

ほとゝぎす啼ずばあらじ作の嶋

五日

    吉 田

(瓜)の香やはしの前までほかけ船

   けふは塩見坂の不二見んと、急にいそぎて

畠うつ黒き背中や雲の峰

六日

    新 井

布頭巾舳先にたちて鴎かな

七日

    小夜の中山 に分入て

駕籠かきが武士を泣するむかし哉

   中御門の中納言家行、西岸に宿して命を失
   ふと殘されし、 菊川 といふ處を過るに、

松陰や目にしむ汗もとゞまらず

    大井川 を見渡したるに、思ひしにかはり水
   あせて、わたりやすげなり。

水無月やちんばも見得て大井川

   蔦の細道

うつの山よろりとしたるあつさ哉

    柴屋 に尋入に、古めとも名を知られたる庭
   のおもて物ふりて、岩木に似たるむかしか
   なと玄仍の句、梅の若葉なるもなつかし。

くさふかき庭に物有蝸牛

   姥が池

鬼蓮やうばがむ(か)しのかぶり物

    清見寺

椶櫚の葉に蝉はひとつか清見寺

   薩タ(※「土」+「垂」)を見はらす

尻むけて親しらず也海老拾ひ

   富士川をわたり、酒はよし原にさだめて、
   あけぼの見んなどおもひ侍るに、俄に風お
   ちて雲は墨をうちこぼし、光はふすまをひ
   ろげたらむほどにて、夕立も當のけしきな
   らず、往來の士官は鑓の柄に雫をかたぶけ、
   農夫は鋤を抱てはしる。そこら吹ちらして、
   あはたゞし。

神鳴に茄子もひとつこけにけり

   からうじて泊にわたる。終夜雨なをやまず。

秋ゆする蚊屋を船かと寐覺哉

九日

   きのふにかはり快晴わたる。雲外巓仙客來
   遊べし。

禪定のこゝろになるや富士の月

十日

    箱 根

馬かたの胸髭あつき山路かな

    小田原

(菅)の馬上はいづれ獸かり

十一日

    鴫立庵

   西行上人の像を拜す。
   水賣も只にはあらじ檜かさ

十二日

    品 川

凉しさを土佐殿見たり上總やま

   日本橋

馬くらやまつりめいたる一かしら

團友齋

  夏 部

聞からに千人力やほとゝぎす
   泥足

すむ月に垢のぬけたりけしの華
   桃先

かろがろと荷も撫子の大井川
    惟然

    内藤露沾 公の高閣に溜池を觀遊して

夏山に我は翠簾とる女かな
    其角

水鳥の巣もや引けん菖蒲草
    桃隣

   有竹居に遊びて

蛸喰て蓼摺小木のはなし哉
   凉莵

  秋 部

    大伽藍 造營ましましけるとしの今
   日、遠くおがみ侍けるに、富士・築
   波根の間に、夏に山ひとつ出來た
   るかと、空のにほひも、ちかくな
   るへきほど成けり。

上野より道や付らんあまの川
   嵐雪

病人としもくに寐たる夜寒哉
    丈草

   いますむ所、凉莵下向より上るべ
   き時迄の日數に、四壁のこしばり
   迄を仕まへば、冬ごもり嘸とおも
   ひやらせ侍る。

さい槌の音をしまへば砧かな
    其角

杵の音あれをもてなす夜寒かな
    如舟

野ゝ宮の鳥居に蔦もなかりけり
   凉莵

   旅 行

先になり跡に鳴海やわたり鳥
   凉莵

芋洗ふ西行ならば歌よまん
 はせを

    大 佛

夕顔や膝に稲おく大ほとけ
   凉莵

    江 嶋

むかふ日や萱も薄も辨才天
   仝

   凉子が旅やつれに鏡かして

はつとした鬢にかゝるやよしの花    木因

   ひたちの鮭・かまくらの鰹・古江の
   鱸鱠・わたらぬ雁に俎板をならし、
   遠き海の珍物、ちかき江のひれも
   の、こゝろにおもへば、よだれに
   ながれ、さもあれ、ことしの名月
   ながめ得たり。

献々は咄してすみぬけふの月
   嵐雪

   團友齋、海邊の趣向をあらはし、こ
   の里に一折を殘す。あけなばいせ
   の國へわたらんとなり。
  熱田
遠けれどむかひ隣や月の海
   梅人

名月の團友坊はおとこかな
   嵐雪

   

名月や芝の網引に好なもの
   凉莵

   永代橋

   あらたにこのはしを渡るに、景色
   めでたく富士・築(筑)波も見得たり。

この橋をかけた大工よけふの月
   仝

    大成殿

聖堂の庭に詩人や今日の月
   凉莵

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