このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
岩田涼莵
『皮籠摺』(涼莵編)
元禄11年(1698年)5月末、
岩田涼莵
は伊勢を立つ。6月12日、江戸に着く。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
元禄12年(1699年)、『皮籠摺』(涼莵編)刊。
其角
序。 |
六月廿日居を轉じて、竹三竿をう | ||
へつけたるに、頻にほころびたる | ||
聲あり。 | ||
晋子 | ||
竹の蝉さゝらに絞る時もあり | ||
泊りたふなる家の凉しさ | 凉莵 | |
一 折 | ||
嵐雪
| ||
齒の跡のあり葛の葉の裏表 | ||
もとの平地へ出たる茸狩 | 凉莵 | |
春 部 | ||
蓬莱にきかばや伊勢の初便
| 芭蕉 | |
面々の蜂をはらふや花の春 |
嵐雪
| |
元日は士つかふたる顔もせず |
去來
| |
門松の木藥店や大袋 |
木因
| |
羽二重の心になるや華の春 |
如行
| |
人中をにほひありくや市の梅 |
露川
| |
三州 | ||
鶯の相手をかえて椿かな |
白雪
| |
鶯のまたれて鳴や日一日 |
北枝
| |
竹の月鶯藪と見立けり | 桃後 | |
名古屋 | ||
石垣につまるゝしだり柳かな | 素覧 | |
きさらぎや火燵のふちを枕本 | 嵐雪 | |
芹つみやむかひへまはる鶴の跡 | 十丈 | |
赤いもの摘て雛の座敷哉 |
諷竹
| |
冬たつや御所柿の手にひゆる程 | 沾徳 | |
豊後 | ||
しがらみの雪踏ちらす千鳥かな | りん | |
水仙に尤づけるさむさかな | 野紅 | |
皮籠摺 上終 | ||
東武行 | ||
元禄とらのことし五月のすゑ、武陵の旅に | ||
おもひたちて、内外の廣前にまうづ。 | ||
凉莵拜 | ||
外宮
| ||
凉しさのまことは杉の梢なり | ||
内宮
| ||
拍手の袂も凉し木の雫 | ||
各餞別 | ||
水鶏にもぬかりはあらじ旅の宿 |
乙由
| |
團友子發足に下りあはせて | ||
一ふしはどこへ出しても夏男 |
諷竹
| |
水無月二日 居を出て船にのるべき處へわたる。 | ||
旅道具は一いろもむづかし。 | ||
扇から落して仕廻首途かな | 凉莵 | |
三日 | ||
神社を出船して、二見の朝日はな | ||
やか也。 | ||
かたびらや船で髪結ふ玉くしげ | ||
鳥羽浦 | ||
城山や飛島かけて鰹ぶね | ||
答志崎 | ||
大みや人の玉藻かるらんとよみしも、この | ||
うらなるべし。 | ||
藻の花をかけて飛たり冠鷺 | ||
作の嶋 | ||
はせを翁の、
鷹ひとつみ付てうれし
と申 | ||
されし、いらこ崎のひだりに當れり。 | ||
ほとゝぎす啼ずばあらじ作の嶋 | ||
五日 | ||
吉 田
| ||
爪(瓜)の香やはしの前までほかけ船 | ||
けふは塩見坂の不二見んと、急にいそぎて | ||
畠うつ黒き背中や雲の峰 | ||
六日 | ||
新 井
| ||
布頭巾舳先にたちて鴎かな | ||
七日 | ||
小夜の中山
に分入て | ||
駕籠かきが武士を泣するむかし哉 | ||
中御門の中納言家行、西岸に宿して命を失 | ||
ふと殘されし、
菊川
といふ處を過るに、 | ||
松陰や目にしむ汗もとゞまらず | ||
大井川
を見渡したるに、思ひしにかはり水 | ||
あせて、わたりやすげなり。 | ||
水無月やちんばも見得て大井川 | ||
蔦の細道 | ||
うつの山よろりとしたるあつさ哉 | ||
柴屋
に尋入に、古めとも名を知られたる庭 | ||
のおもて物ふりて、岩木に似たるむかしか | ||
なと玄仍の句、梅の若葉なるもなつかし。 | ||
くさふかき庭に物有蝸牛 | ||
姥が池 | ||
鬼蓮やうばがむ(か)しのかぶり物 | ||
清見寺
| ||
椶櫚の葉に蝉はひとつか清見寺 | ||
薩タ(※「土」+「垂」)を見はらす | ||
尻むけて親しらず也海老拾ひ | ||
富士川をわたり、酒はよし原にさだめて、 | ||
あけぼの見んなどおもひ侍るに、俄に風お | ||
ちて雲は墨をうちこぼし、光はふすまをひ | ||
ろげたらむほどにて、夕立も當のけしきな | ||
らず、往來の士官は鑓の柄に雫をかたぶけ、 | ||
農夫は鋤を抱てはしる。そこら吹ちらして、 | ||
あはたゞし。 | ||
神鳴に茄子もひとつこけにけり | ||
からうじて泊にわたる。終夜雨なをやまず。 | ||
秋ゆする蚊屋を船かと寐覺哉 | ||
九日 | ||
きのふにかはり快晴わたる。雲外巓仙客來 | ||
遊べし。 | ||
禪定のこゝろになるや富士の月 | ||
十日 | ||
箱 根
| ||
馬かたの胸髭あつき山路かな | ||
小田原
| ||
管(菅)の馬上はいづれ獸かり | ||
十一日 | ||
鴫立庵 | ||
西行上人の像を拜す。 | ||
水賣も只にはあらじ檜かさ | ||
十二日 | ||
品 川
| ||
凉しさを土佐殿見たり上總やま | ||
日本橋 | ||
馬くらやまつりめいたる一かしら | ||
團友齋 | ||
夏 部 | ||
聞からに千人力やほとゝぎす | 泥足 | |
すむ月に垢のぬけたりけしの華 | 桃先 | |
かろがろと荷も撫子の大井川 |
惟然
| |
内藤露沾
公の高閣に溜池を觀遊して | ||
夏山に我は翠簾とる女かな |
其角
| |
水鳥の巣もや引けん菖蒲草 |
桃隣
| |
有竹居に遊びて | ||
蛸喰て蓼摺小木のはなし哉 | 凉莵 | |
秋 部 | ||
大伽藍
造營ましましけるとしの今 | ||
日、遠くおがみ侍けるに、富士・築 | ||
波根の間に、夏に山ひとつ出來た | ||
るかと、空のにほひも、ちかくな | ||
るへきほど成けり。 | ||
上野より道や付らんあまの川 | 嵐雪 | |
病人としもくに寐たる夜寒哉 |
丈草
| |
いますむ所、凉莵下向より上るべ | ||
き時迄の日數に、四壁のこしばり | ||
迄を仕まへば、冬ごもり嘸とおも | ||
ひやらせ侍る。 | ||
さい槌の音をしまへば砧かな |
其角
| |
杵の音あれをもてなす夜寒かな |
如舟
| |
野ゝ宮の鳥居に蔦もなかりけり | 凉莵 | |
旅 行 | ||
先になり跡に鳴海やわたり鳥 | 凉莵 | |
芋洗ふ西行ならば歌よまん
| はせを | |
大 佛
| ||
夕顔や膝に稲おく大ほとけ | 凉莵 | |
江 嶋
| ||
むかふ日や萱も薄も辨才天 | 仝 | |
凉子が旅やつれに鏡かして | ||
はつとした鬢にかゝるやよしの花 |
木因
| |
ひたちの鮭・かまくらの鰹・古江の | ||
鱸鱠・わたらぬ雁に俎板をならし、 | ||
遠き海の珍物、ちかき江のひれも | ||
の、こゝろにおもへば、よだれに | ||
ながれ、さもあれ、ことしの名月 | ||
ながめ得たり。 | ||
献々は咄してすみぬけふの月 | 嵐雪 | |
團友齋、海邊の趣向をあらはし、こ | ||
の里に一折を殘す。あけなばいせ | ||
の國へわたらんとなり。 | ||
熱田 | ||
遠けれどむかひ隣や月の海 | 梅人 | |
名月の團友坊はおとこかな | 嵐雪 | |
芝 | ||
名月や芝の網引に好なもの | 凉莵 | |
永代橋
| ||
あらたにこのはしを渡るに、景色 | ||
めでたく富士・築(筑)波も見得たり。 | ||
この橋をかけた大工よけふの月 | 仝 | |
大成殿
| ||
聖堂の庭に詩人や今日の月 | 凉莵 |
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |