このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
下郷蝶羅
『松のわらひ』(蝶羅編)
奥羽行脚留 或時菴嵐亭 千代倉蝶羅 | |
東都留別 明和六年己丑四月五日 | |
着て見れば内に居られぬ袷かな | 蝶羅 |
霊巌島の酒肆より
千住
へ乗船の折から、半途 | |
にして雨ふりければ、 | |
よきつれや濡ても夏の旅ごろも | 蝶羅 |
朝雨に笠脱なつの旅路かな | 嵐亭 |
草加
といふ宿にて | |
泊れとて散らすや藤は夏ながら | 蝶羅 |
杉戸の宿にやどりて | |
見所もなくて尊し杉の花 | 仝 |
名にしおふ杉戸のやどの青あらし | 嵐亭 |
栗橋
のわたしにて | |
音にきく坂東太郎ほとゝぎす | 蝶羅 |
古河の駅中に昼笥をほどき、此ほとり枕香の | |
古河のわたりときこえ侍りて | |
みじか夜や枕香ならば一やすミ | 蝶羅 |
枕香に風もかほるやかし座敷 | 嵐亭 |
室八嶋
奉納 | |
神さびて麦の穂波の八しまかな | 仝 |
森々とわか葉もけぶる宮居哉 | 蝶羅 |
卯月七日、
鹿沼
籟干亭にやどりて | |
立よれば麻のそだちぞたのもしき | 仝 |
卯月十日青天
日光山
奉納 | |
仰ぐべし扇を幣に日の光り | 嵐亭 |
夏山や梢も玉の下しずく | 蝶羅 |
寂光寺
おくに瀧あり | |
白滝や水鶏のたゝく釘の音 | 嵐亭 |
したゞりや瀧へ打込釘の音 | 蝶羅 |
大日堂
| |
池の面に夏花の外ハ塵もなし | 仝 |
がんまんが渕
| |
ありありと梵字のかげやなめくじり | 仝 |
中禅寺
歌の浜といへる湖水有 | |
岩が根や登れば法の苔清水 | 嵐亭 |
風薫るこもり人床し歌の浜 | 蝶羅 |
弁慶桜盛りなれば | |
手折るゝ雲の峯あり児桜 | 仝 |
夏やまの誓ひにもれぬ花の雪 | 嵐亭 |
けごん瀧 | |
かハせミも身をひそめたる瀧見哉 | 蝶羅 |
裏見瀧
| |
底清水しれぬうらミや山かつら | 嵐亭 |
瀧見よと這行葛のわかばかな | 蝶羅 |
那須野
にて雨降ければ | |
篠はらや夕立たバしる丸合羽 | 蝶羅 |
一日温泉に浴て | |
旅痩も一夜浴れば夏木立 | 仝 |
夏山にゆかたながらの旅寝哉 | 嵐亭 |
殺生石
| |
君が代や石はくだけて苔の花 | 蝶羅 |
卯月十六日朝霧ふかく
白川の関
こゆるとて、 | |
はじめて杜宇を聞侍りて | |
白川のほの明越えにほとゝぎす | 嵐亭 |
越てきけはじめておくの郭公 | 蝶羅 |
浅香の里にやどりしに、此所の好士
露秀
とい | |
へるより茶菓子など贈りて、誹談時をうつす | |
浅香とは沼にこそあれ深見草 | 蝶羅 |
此清水汲とあるじの道しるべ | 嵐亭 |
松嶋吟行の序なりとて嵐蝶二風子に訪れて | |
郡山 | |
かゝる夜を二度にわけたし時鳥 |
露秀
|
此ほとり都で
浅香の沼
といへるよし | |
苗しろもかつミもいまだ浅香なる | 蝶羅 |
安達が原
黒塚 | |
黒鴨もこもるか塚のそのあたり | 蝶羅 |
黒塚や枳殻の角ハ花の時 | 仝 |
鬼百合は剛力どもが詠めかな | 嵐亭 |
卯月廿日晴天福島出立。子洽・楮白・南楚し | |
のぶ山
文字摺石
を案内せんと各先にすゝミて | |
若葉して昼の人目やしのぶ山 | 嵐亭 |
此けしき持て何とて忍山 | 蝶羅 |
山口むらにて | |
石の背をたゝく水鶏やミだれ摺 | 子洽 |
みじか夜を女草男草やしのぶ摺 | 嵐亭 |
岩藤をわらびもミだれしのぶずり | 蝶羅 |
さわらびも草に戻りてしのぶずり | 仝 |
文字ずりやほたる三ツ四ツミだれぞめ | 仝 |
鐙 摺
| |
山陰や蚋にさゝれて鐙ずり | 仝 |
古将堂
| |
よろふたるかげや二人の妻あやめ | 仝 |
岩沼の駅宮沢休粋子を尋て | |
契りをく松とは君か皃よ花 | 仝 |
息八弥といへる少童案内にて | |
目を覺す二木の松や青あらし | 嵐亭 |
一木づゝ松かぜかほれ二人連 | 蝶羅 |
笠島
に詣て | |
笠嶋やいたゞく笠も卯月照 | 仝 |
若竹をまだらにそゝぐなミだかな | 嵐亭 |
中将の古墳を尋て | |
古塚や歌の手にはに苔の花 | 嵐亭 |
記念とは何を藪蚊の声ばかり | 蝶羅 |
卯月廿二日仙台に入て | |
何ひとつ魂消ぬはなし牡丹の府 | 仝 |
翌日嘉定庵の社中にいざなハれ | |
木の下薬師
宮城野を | |
堂庭も木の下闇の古びかな | 仝 |
もとあらに荒ても露のわかばかな | 蝶羅 |
みやぎ野やさすがに茨の花もなし | 仝 |
宮城野や萩吹伸す夏の風 | 野月 |
ミやぎ野やほたるも恋の鳴音より | 東扇 |
十苻菅
| |
三苻に寝た情のはしや菅の守リ | 蝶羅 |
我笠を見てさへ嬉し十苻の菅 | 野月 |
民草をまねけバ凉し十苻の菅 | 東明 |
壺 碑
| |
いしぶミや夜ハ水鶏のたゝく音 | 嵐亭 |
碑に橘の香はなかりけり | 蝶羅 |
山と成田となる文字に苔の花 | 東明 |
鷺草やいしぶミ守る五位六位 | 野月 |
末の松山
| |
松山に浪こす音歟青あらし | 蝶羅 |
松やまに麥の穂波のそよぎかな | 嵐亭 |
実末の松吹おろす青すだれ | 野月 |
沖の石
| |
かほよ花ちどりに見えつ沖の石 | 嵐亭 |
夏藤のたもともぬれつ沖の石 | 東明 |
袂にも沖の石あり汗ぬぐひ | 蝶羅 |
玉 川
| |
ゆふぐれや捜せバ野田に千鳥の巣 | 仝 |
ほとゝぎす一こゑ野田のちどりとも | 野月 |
塩竈
夜泊 | |
しほがまや蚊やりも千賀のうら伝ひ | 嵐亭 |
塩釜 | |
舟路わすれず青あらし敷 | 魚行 |
しだり尾の熨斗とこたへて娵見せて | 蝶羅 |
牽頭もつほど客ハ静まる | 東明 |
一間には數珠の露ちる朝の月 | 野月 |
升掻いはふ豊年の秋 | 筆 |
塩がまの桜や千賀のうらわかば | 蝶羅 |
藤塚氏金牛子が棲霞樓に登りて | |
透る小嶋や千賀のうすごろも | 仝 |
松 嶋
| |
巻上て誰もつ島の青すだれ | 嵐亭 |
松しまやうぐひすも音を入かねし | 蝶羅 |
石の巻
といふ湊にて | |
舟板にかたつぶりさへ石の巻 | 蝶羅 |
高清水へ出るとて | |
細道や一里も近し明安し | 仝 |
南部海道金成といふ駅中に馬市ありて | |
いと賑々しけれバ | |
馬市にたつ蚊ばしらや昼日中 | 仝 |
此日終日南部馬数千疋牽つれて道路騒々 | |
しけれバ | |
牽つれて蟻の歩ミや南部馬 | 蝶羅 |
山の目といへるに旅寝して社中の訪ひ | |
給へるニ対して | |
山の目や茂ミも深き一かまへ | 嵐亭 |
山の目や情こぼれて櫻の実 | 蝶羅 |
平泉の茶店にて | |
掘出してかざれやあやめの太刀兜 | 蝶羅 |
高 館
| |
草摺の昔はむかしぞ青あらし | 嵐亭 |
只今唯山と河のミかんこ鳥 | 蝶羅 |
中尊寺
光堂 | |
雨の日やほたる飛かふひかり堂 | 仝 |
ありがたや若葉のなかにひかり堂 | 嵐亭 |
達谷窟毘沙門
安置 | |
岩ひばを鎧て立り多聞天 | 蝶羅 |
岩ふじハ鉾のしるしや多聞天 | 嵐亭 |
旧跡を尋られて | |
高館の代には庭なり瓜の花 | 笋之 |
太刀は菖蒲にかほる夜すがら | 蝶羅 |
皐月朔日終日雨天
磐手山
を余所に見て | |
さつきとハいはでもしれで晴間なし | 仝 |
あねはの松 | |
粽結へあねハの松も妹も | 蝶羅 |
古川といふ驛に
緒だへの橋
あり折ふしさミ | |
だれにて戎歌 | |
さミだれのふる川なればわらんぢの | |
緒だへのはしハこれでござるか | 仝 |
五月三日仙臺へ帰東明亭逗留、翌日東扇亭 | |
歌仙 | |
麻の葉の建並らべたる幟かな | 蝶羅 |
破れをかくしてあやめふく軒 | 東扇 |
盃のくるくるまハる車座に | 嵐亭 |
元服すればよい男なり | 金馬 |
東扇・東明の二子の厚き情にしバらく旅情を | |
わすれ今ハた蚶潟へ杖を引とて | |
みじか夜や營華の夢の明はなれ | 蝶羅 |
名 録 | |
咲倦て花で捨たる椿かな |
丈芝
|
酒田 | |
繰舟の野中に淋しぎやうぎゃうし | 百和 |
五原春色 | |
大沼 | |
桜ちる京のたよりを巨(炬)燵哉 | 鸞窓 |
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |