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大島蓼太
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『芭蕉庵再興集』


 明和8年(1771年)、大島蓼太 は芭蕉百回忌取越し追善のため、深川 要津寺 に芭蕉庵を再興。その記念集である。

   序

東武 深川の芭蕉庵 は天和の頃より元禄のはしめ迄三度破て三たひむすふされは此地は三叉口の潮富士の雪をひたし隅田川の流に月を洗ふ猶長橋よこたはりて鐘は上野歟淺草かと花の雲に眸をさく其風光捨かたけれはならし志かるを翁難波津に歿し給ひて後は門人 杉風 空坊を守て月々の興行をこたらさりしとそいつの頃かとよ其所諸侯の御うち構と地を變てよりむなしく古池に影見る人たになく星うつり霜經りぬ扨こそ原松か星月夜集沾涼か江戸砂子にも芭蕉庵の跡なく塚は草むらにかくれたるよしをしるしてさなから武江に俳子なきかことし夫さへ享保元文の昔語にして予其頃はむかふ髪の跡いまた青かりしころなるへし それよりこの道にふけり翁の徳行を志たへは其遺跡の絶たるをうらみかの舊庵に程近き要津禪林に七十年の冬百回忌を招いて塚を築木像を彫刻して位牌堂に納年々の十月十二日は俤をしたはすといふ事なしさるを明和八年のことしや時至て江都の人々を始社中力をあわせ彼寺の門前引入たる所に再はせを庵を結あたりにくほかなるところをうかち忘水のわすれぬ古池の吟をうつす又砌に一宇をいとなみ觀世音と木像を安置す

芭蕉の句碑


  ふる池や
碑面     蛙飛こむ
         水の音

  雪はふる池に和して水音をつたへ
碑陰 月の一燈花の清香もをのつからな
  る此翁の徳行をあふくのみ

  夜雪庵
 白妙の雪より出たり後夜の月   普成
  雪杉樓
 夕汐やのほれは月のみやこ鳥   龜求
  玉雪齋
 うつろはしうつろはしとてちる花歟   子交

  深川親和七十三歳書



   懐舊之俳諧

取こして牡丹を蓮のうてなかな   蓼太

 非時も新茶の香ににほふ時   楚水

先ひとへ傳授に箱の紐ときて   班象

      百韻余畧之

   賦何人俳諧之連歌

四隅より庭こそ茂れ江戸さくら   蓼太

 玉まく庵も芭蕉葉に今   連丈



 江戸七芭蕉 兩國橋より順禮道筋

深川六間堀
  俤塚  禪宗 東光山要津寺

   雪中三代蓼太造立

寳暦十三年十月十二日七十年に相當翁の自畫を埋塚を築てもつて名つく三萬句を興行し百回の法會を執行俤塚集に委

深川森下町
  時雨塚  禪宗 蟠龍山長慶寺

世にふるはさらに宗祇のやとりかなこの一葉を埋て元禄七戌年古杉風築傍に其角嵐雪の碑あり寛保三亥年五十回忌之節眠柳居子再興同光忌にくはし

本所猿江
  塚并千那  天台宗 醫王山泉養寺

延享元子年千梅造立河野氏梅尺屬之

本所押上村
 浄土宗 長行山大雲寺

旅に病て夢は枯野をかけ廻る 此句を埋寛保三亥十月五十回に古祇徳築其後寳暦五亥十月松村桃鏡立

本所原庭
 小堂  禪宗  白牛山東盛寺

寛保三五十回之節夢中庵破笠彫刻の肖像を安置夕可庵 馬光 造立芭蕉林に委

本所牛御前近所
  雪見塚  天台宗 寳壽山長命寺

いささらは雪見にころふ所まて此句を刻て名とす寳暦三酉十月古祇徳門人祇庸造立松村桃鏡補之

牛込關口氷川明神近所
  五月雨塚  禪宗 龍 隱 庵

さみたれにかくれぬものや瀬田の橋此句を埋て名とす寛延三八月夕可庵門人露什芬路造立



      芭蕉をうつす辭

菊は東籬にさかへ竹は北窓の君となる牡丹は紅白の是非にありて世塵にかけさる荷葉は平地にたゝたす水清からさればはなさかすいつれの年にや栖を此境にうつすとき芭蕉ひともとをうふ風土はせをのこゝろにやかなひけん數樹莖をそなへ其葉しけり重りて庭をせはめ茅か軒端もかくるゝはかりなる人呼て草庵の名とす舊友門人ともに愛して芽をかき根をわかちて所々に贈事年々になん成ぬ一とせみちのくの行脚おもひ立て芭蕉庵既破んとすれはかれは籬の隣に地をかへてあたり近き人々に霜の覆風の圍なとかへすかへす頼置てはかなきふてのすさみにも書殘し松はひとりに成ぬへきにやと遠き旅寐のむねにたゝまり人々のわかれ芭蕉の名殘ひとかたならぬわひしさも終に五年の春秋をすこしてふたゝひ芭蕉に涙をそゝく今年五月の半盧橘のにほひもさすかに遠からされは人々のちきりも昔に替らす猶此あたり得立さらてふるき庵もやゝちかう三間の茅屋つきつきしう杉の柱いと清しけに削なし竹の枝折戸やすらかに葭垣厚くしわたし南に向ひ池に望て水樓となす地は富士に對して柴門景をすゝめてなゝめなり淅江の湖三ツまたの淀にたゝへて月見る便よろしけれは初月の夕より雲をいとひ雨をくるしむ名月の粧にとて、先芭蕉をうつす其葉廣うして琴をおほふにたれり或は半吹折て鳳鳥の尾をいたましめ青扇破て風を悲むたまたま花咲ともはなやかならす莖ふとけれとも斧にあたらすかの山中不材の類木にたくへて其性尊し僧懐素は是に筆をはしらしめ張横渠は新葉を見て修學の力とせしとなり予其二をとらすたゝ此陰に遊ひて風雨にやふれやすきを愛するのみ



   表八章

花の雲鐘は上野歟あさ草歟    芭蕉翁

 かけろふわたる橋のもろひと   楚龍


ひとこゑの江に横たふや郭公    翁

 若葉はるかに雲の筑波根   舊國


降すとも竹植る日は簔と笠    翁

 この夏はかり我くさの庵   千牛


芭蕉野分して盥に雨を聞夜哉    翁

 をのをの起きよ月はともあれ   子交


蓑虫の音を聞に來よ草のいほ    翁

 五合はかりは酒もある月    龜求


名月や門にさしくる汐かしら    翁

 たちいてゝ猶ゆふくれの秋    乳□


きみ火たけよき物見せん雪丸け    翁

 立て蕗つむとしわすれ酒    白門



   四季

ゆく水や何にとゝまる海苔の味     其角

秋風のこゝろうこきぬ繩すたれ    嵐雪

むつくりと岨の枯木もかすみ鳧    杉風

しる人にあはしあはしと花見哉    去來

馬の耳すほめて寒し梨の花    支考

大原や蝶の出て舞おぼろ月    丈草

鶯や雑煮過たる里つゝき    尚白

盆の月寐た歟と門をたゝきけり    野坡

神をくり荒たる宵の土大根    洒堂

高燈籠晝はものうき柱かな    千那

聲あらは鮎も鳴らん鵜飼船    越人

凩に二日の月のふきちる歟    荷兮

出る日やぬれ色かすむ伊勢の海    團友

八重霞奥迄見たる龍田かな    杜國

ふけゆくや水田のうへの天の川    惟然

馬かりてたけ田の里やゆく時雨   乙州

門前の小家もあそふ冬至かな    凡兆

廣澤やひとりしくるゝ沼太郎   史邦

さほ鹿のかさなりふせる枯野哉    土芳

山さくらちるや小川の水くるま   智月

しら濱や何を木陰にほとゝきす    曾良

日の岡やこかれてあつき牛の舌    正秀

麥喰し雁と思へとわかれかな    野水

衣かへや白きは物に手のつかす    路通

粟糠や庭にかたよるけさの秋    露川

しくれねは又松風のたゝをかす    北枝

念入て冬からつほむ椿かな    曲翠

十五日たつや睦月の古手買    之道

鹿のふむ跡や硯のみつねかた   素龍

名月や灰吹すてる陰もなし    不玉

藪疇や穂麥にとゝく藤の花    荊口

山の端をちから顔なり春の月   魯町

蓮の葉や心もとなき水はなれ    白雪

我舞てわれに見せけり月の影    素堂



   四時混雑

鶯と見えては竹の寒さかな   杉風

醉さめのふたゝひ更て時鳥   龜求

あかつきの槇のしつくや郭公   普成

蕣や北の家陰の花さかり    玉斧

投入て宿はつかしき牡丹かな   雨考
  浪花
嘘つかぬ里も過たり山さくら   舊國
下總武内
顔見世や霜置かへて花もみち   眠江

葉落ても櫻さためんけふの月    素丸

峯こせは青梅はなし郭公   宗瑞

ほとゝきす三聲聞たり勢田の橋   桃隣

夜櫻に烏賊の墨吐曇かな   班象

帶はまた解ぬ戀なり郭公    官鼠
  
名月やすかし過して竹の奥   求光

   鎌倉にて

屋敷一つ持ぬ案山子もなかり鳬    乙兒

下蔭は紅葉ふむなりかへり花   吐月

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