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俳 書
『初蝉』(風国編)
初 蝉 集 巻之上 | |
春の部 | |
風麦亭にて | |
春たちてまた九日の野山かな
| 芭蕉 |
うくひす | |
東武 | |
鶯の身をさかさまに初音かな
|
其角
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桑門 | |
鶯の薄壁もるゝ初音かな |
惟然
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大坂 | |
うくひすの小頸捻るや朝けしき |
之道
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鴬や内のもなけは野から来る |
去来
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伊賀 | |
鶯のなき集めたる胡蝶かな |
土芳
|
おなしく | |
葉かくれに鶯の巣やなく片手 | 猿雖 |
筑前クロサキ | |
鴬や十聲もつゝく窓のさき |
水札
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鴬や初音ないても中たゆる | 風國 |
大津あま | |
わらすへにゆはれ次第や芹薺 | 智月 |
嵯峨農夫 | |
春風にわらすへ盗む雀かな |
為有 |
おほろといふを | |
尾州 | |
門かさり空は朧なり |
露川 |
いせ | |
小座しきに餅のむしろや梅のはな |
團友
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忘るなよ藪の中なるむめの花 | 芭蕉 |
此句はある門人に遣れける也 | |
田にし | |
里の男のはみちらしたる田にしか | |
らを水底にしつめ待居たれは腥を | |
むさほれるとちやうのいくらとも | |
なく入こもりて | |
入替るとちやうも死ぬそ田にしから |
丈屮
|
筑前クロサキ | |
鳴さかる雲雀や雨のたはね降 |
沙明
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惟然尋られしに逢さろけれは | |
江州平田 | |
陽炎にとりにかしたる雲雀かな |
李由
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周防
岩國
山の麓を過るとて | |
半帋すく川上清しなく雲雀
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惟然 |
皃に似ぬ發句も出よ初さくら
| 芭蕉 |
しはらくは花の上なる月夜かな
| 芭蕉 |
死ンたとも留守ともしれす庵の花 | 丈屮 |
禅寺にて | |
食時の鐘や杉より峯の花 | 惟然 |
廣しまにて | |
やかて花になる浦山や海苔日和 | 仝 |
さか | |
沓ぬきに足をもためす花見かな | 野明 |
花を宿にはしめ終りや廿日程
| 芭蕉 |
此句はいか宗無亭にての吟なり | |
黄壁やひたるうなりて春のくれ |
如行
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此句は洛よりまかりての吟也 | |
長サキ | |
菜種よりぬれいろふかし麦の波 | 卯七 |
住よしにて | |
さえかえる神樂處の置火鉢 | 泥足 |
長さき | |
唐竹の根にしからむや濱防風 | 素行 |
惟然行脚の物かたりのつてに | |
彦山や雲はひのほる葛根ほり | 正秀 |
出替りや牛かてんして大原迄 | 其角 |
伏見西岸寺任口上人にあふて | |
われ來ぬにふしみの桃の雫せよ
| はせを |
芭蕉翁塚
にまうてゝ | |
陽炎や塚より外に住はかり | 丈屮 |
里の男のはみちらしたる田にしか | |
寒たけはさむく土用たけはあつし | |
春ひとりなんそ余興なきや | |
春たけは持のこさぬやおもしろみ | 仝 |
木曾塚の旧草にまいりける時前の | |
田つらに鷺のむれ下りけるを
丈屮
| |
子指さして此鷺こそこの菴の冨貴 | |
なれ故翁も如何ほとか秘藏ありし | |
と教られしに申侍る | |
白鷺の春をおしみてあつまるか | 風國 |
夏の部 | |
ほとゝきすまねくや麦のむら尾花
| ばせを |
更 衣 | |
尾州 | |
立雲の南に白しころもかへ | 素覧 |
三井寺
龍華院にて | |
竹の子に来て三井寺の夜の雨 | 風國 |
一とせ翁
落柿舎
にあそひたまひけ | |
るを訪て | |
竹の子や喰のこさるゝ後の露 |
李由
|
卯の花 | |
卯の雪に負褶さむし初瀬山 |
去來
|
圓覚寺大顛和尚遷化したまふよし | |
聞えけれは尾はりの國より其角か | |
かたへ申遣されけるなり | |
梅恋て卯の花拝む泪かな
| 芭蕉 |
ほたる | |
螢火や蟹のあらせし庭のへり |
丈屮
|
月末にまはる螢のさかり哉 |
正秀
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きやうきやうし | |
柿の葉の形のわるいにきやうきやうし |
土芳
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水 鶏 | |
田のすしに水鶏なく也星月夜 |
團友
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端 午 | |
膳所 | |
川風の菖蒲ふきけり淀の町 |
曲翠
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五月雨 | |
イカ | |
さしませて屋根のふるひや五月雨 |
卓袋
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五月雨やまたも人とる田むら川 |
露川
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牛なかす村のさはきや五月雨 |
之道
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順礼の時に | |
美濃掛て眞桑も見えす暑さ哉 |
去來
|
草臥の根ぬけや沖の昼すゝみ |
丈屮
|
尾花澤
清嵐亭
にて | |
すゝしさを我宿にしてねまる也
| 芭蕉 |
雲のみね | |
國半や青田に移る雲のみね |
許六
|
麦 穐 | |
越中 | |
疱瘡する兒も見えけり麦の穐 |
浪化
|
大津 | |
あら馬の蹴たてゝ行や麦の穐 |
尚白
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さひしさや岩にしみ込蝉のこゑ
| 芭蕉 |
祭 | |
東武 | |
象潟は料理なにくふ祭りかな
|
曽良
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加州 | |
木のまたにことしもねふる祭かな |
北枝
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題しらす | |
東武 | |
唐の蚊や終にかれたるもしほ草 |
嵐雪
|
此句は唐紙に蚊のすきこみてありしを | |
見ての吟なるよしきこえける | |
ゆふかほに荷鞍干たるやとり哉 | 朱拙
|
伊賀望翠亭にて | |
三尺の池に風あり夏さしき |
露川
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我に似な二ッにわれし真桑瓜 | 芭蕉 |
此句は門人
槐之道
につかはされし也 | |
送
杜國
子 | |
白芥子に羽もく蝶のかたみかな | 芭蕉 |
簔虫庵
にあそひける比庭砌自然のけし | |
きこれそ風雅のまことなりとかたりあ | |
ひて | |
けし畑を結分に鳧ともちから |
惟然
|
おもしろうてやかてかなしき鵜舟かな
| 芭蕉 |
日光山にて | |
たふとさや青葉若葉の日のひかり
| 芭蕉 |
木節亭にて | |
穐ちかき心のよるや四畳半 | 翁 |
初 蝉 集 巻之下 | |
穐の部 | |
七夕やいはん事なし夜半過 |
猿雖
|
星合の奇特見せけり日和雲 |
正秀
|
玉まつり | |
聖靈のすかれし人をあつめ鳧 |
丈屮 |
聖靈の隣ありきや山の上 | 仝 |
辻おとり誰かなすやらなさぬやら |
土芳
|
桔 梗 | |
脇ひらも見すに咲たる桔梗哉 |
露川
|
朝かほや葉かくれにまた花ひとつ | 風國
|
雜菊のはたかる處結れ鳧 |
沙明
|
筑前クロサキ | |
野屋敷に馬一疋や菊の花 | 帆柱 |
鷄頭花 | |
鷄頭や雁の來る時尚あかし
| 芭蕉 |
みちみちと雨の間や女郎花 |
卓袋
|
猪の鼻くすつかす西瓜かな | 卯七
|
うら町や西瓜に並ふうたひ本 |
曲翠
|
こけさまにほうと抱ゆる西瓜哉 |
去來
|
し か | |
小男しかのきつとねちむく峠哉 |
團友
|
稲妻のわれて落るや山のうへ | 丈屮 |
東武 | |
いな妻や海の面をひらめかす |
史邦
|
長崎に入の吟 | |
朝きりの海山こつむ家居かな | 惟然 |
霧しくれ冨士を見ぬ日そ面白き
| 芭蕉 |
浦のあきとは 須广にて | |
曉を見あはせにけり浦の穐 | 惟然 |
越前
いろの濱
にて | |
さひしさや須广にかちたるうらの穐 | 芭蕉 |
老の名のありともしらて四十から
| 芭蕉 |
虫 | |
遊
石山寺
| |
佛像の名をなき分よ虫の声 |
李由 |
あんとんにおほひをせはや虫のこゑ | 朱拙 |
蕎麦の花 | |
豊前の國小倉を出て
黒さき
ちかき | |
あたりにて | |
歩行よりそおもむく峯にそはの花 | 惟然 |
柿 | |
落柿舎
感偶 | |
柿買や見れはぬいたる眞桑賣 | 去來
|
山からす觜染る熟柿かな | 爲有 |
落柿舎
普請の比 | |
屋根崩す鎌のしり手や柿紅葉 | 可南女 |
月 | |
翁
義仲寺
にいませし時に | |
名月や兒たち並ふ堂の橡
| 芭蕉 |
とありけれと此句意にみたすとて | |
名月や海にむかへは七小町
| 仝 |
と吟しても尚あらためんとて | |
明月や座にうつくしき皃もなし
| 仝 |
といふに其夜はさたまりぬ | |
これにて翁の風雅にやせられし事を | |
しりて風雅をはけまん人の教なるへ | |
しと今茲に出しぬ | |
のりなから馬草はませて月見哉 | 去來
|
まつ宵の月やむかひに出る雲 | 正秀
|
豊前
小倉
に舟つきて | |
名月や筵を撫る礒のやと | 惟然
|
西條にとまりて | |
長サキ | |
旅なれは稲をまくらに月見哉 | 田上尼 |
かの竹とりの姫のことなんおもひ出して | |
明月やなく顔見たしかくや姫 | 風國 |
題しらす | |
月もるや樗の下の墓参り | 卯七 |
長サキ | |
穐の夜の梦の餘リの昼寝哉 | 魯町 |
難波女 | |
穐風や波のあらあらなく千鳥 | その |
長サキ | |
狩人やいつ髪そりて穐の風 | 牡年 |
しら露や萩とすゝきか心もち | 土芳 |
伊賀へ越ス時おときの峠にて | |
いひおとす峠の外もあきの雲 | 丈屮 |
比丘鉢の蠅にまきるゝ彼岸かな | 游刀 |
大根の二葉に立やけさの穐 | 素覧 |
穐の日や障子かけろふうろこかた | 許六 |
欠あとの葉になるものも煙草かな | 万乎 |
面白き穐の朝寝や亭主ふり | 芭蕉 |
唐からし痩て小枝のおくれ也 |
惟然
|
南都 | |
とられすは名もなかるらんもみち鮒 | 玄梅 |
わた弓や琵琶になくさむ竹のをく
| 芭蕉 |
ある人に餞別 | |
舟よせてになひの水に萩(※草冠に「穐」)の花 | 沙明
|
ミノ
如行
亭にて | |
尾州 | |
市中にふくへを植し住ゐかな |
越人
|
西行谷のふもとになかれありおんな | |
共の芋あろふをみるに | |
芋あろふ女西行ならは哥よまん
| 芭蕉 |
東武 | |
綿の花たまたま蘭に似たるかな |
素堂
|
惟然
か筑紫に出る日いなりのやし | |
ろにまうてゝほ句奉納しけるを筆 | |
のはしめとしもしの関といふ記行 | |
ありいま恙なく歸洛せし事偏に神 | |
慮にかなふなるへしと其句をもと | |
めて | |
又いつとよるへのはたや穐の風 | 惟然 |
朝日にまつの露はほかつく | 風國 |
冬の部 | |
飛かへる岩のあられや窓の内 | 丈屮 |
時 雨 | |
鳥の羽もさはらは雲の時雨口 | 丈屮 |
雪 | |
鉢の木や湯殿に入し雪の宿 |
許六
|
守りゐる火燵を菴の本尊哉 | 丈屮 |
定家の卿の哥に | |
吹あらしあらしと今はおもふ行 | |
あかつきの寢覺なりしを | |
といふを圖して | |
山やおもふ紙帳の中の置火燵 | 仝 |
肥前愛津の関を過るとて | |
目の前てかふりつきたる大根かな
| 惟然 |
備前 | |
水鳥よなんちは誰を恐るゝそ | 兀峯 |
夜からすをそやし立鳧鴨のむれ | 丈屮 |
歳 暮 | |
そはうちて眉髭白しとしのくれ |
嵐雪
|
落柿舎
へ遣しける文のかへりに | |
去來 | |
放すかととはるゝ家や冬籠リ | |
霜のかさねの落葉ふかつく | 風國 |
慮にかなふなるへしと其句をもと | |
此集已ニ成て井筒屋へつかはせし | |
後
北枝
か文にほ句あり且ツおくれ | |
來りし句を添て追加となしぬ | |
脇さしの鞘に霜うく後の月 |
正秀
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元禄九年重陽の日 |
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