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尾崎康工

俳諧百一集』(康工撰)

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宝暦14年(1764年)5月、自序。明和2年(1765年)4月、刊。

北陸の俳人が3分の1以上を占める。

 尾崎康工 は戸出村の俳人。別号八椿舎。近江の 義仲寺 に滞在した。晩年は故郷の戸出村に戻り六壁庵を結んだ。

古池や蛙飛こむ水の音
   芭蕉

    いかなる意味や有けん吟してなみたを流し
    唱てさみしみ自然とあらハる中々申すまても
    なし凡庸の及ふ所にあらす玄々妙々にして
    独歩也信すへし仰へし

元朝や神代の事も思るゝ
    守武

    此神職や古代にあつて
    此源を得たり

元朝の見る物にセん富士の山
    宗鑑

    今の世をたくらへて遠き
    世の調を見るへし

月やあらぬ我身ひとつの影法師
   貞徳

    名家の手段

白露や無分別なる置所
    宗因

    為に手の物を落す

稲妻やきのふハ東けふは西
    其角

   秋の夜のかハり
   安きに翌や又いかならんと世のさまを
   観しあるは通ふ心のあまた有人を
   恨たる詞を残し千万の意味を含て
   絶作也

蒲団着て寝たるすかたや東山
    嵐雪

   象りの姿にして誠に
   平安の景也見る度に
   恋し聞たひに
   ゆかし

応々といへとたゝくや雪の門
    去来

   随聞記に曰
   丈艸支考曲翠正秀其角許六おのおの称嘆
   あれとも爰に略ス去来答曰情なき誉やう共也自賛に
   曰此句に自然と寂の見へぬるを第一と思ひ侍り惣て
   翁の句ハ強も狂たるも厳重なるもいつれにも此寂の
   附たるを皆うらやむ所也とそ

取つかぬちからてうかふ蛙かな
    丈艸
   爰におのれをわすれたる
   此人の悟道を尊へし嗚呼

凩の一日吹て居りにけり
    涼菟

   有のまゝに述たること其身の
   粉骨也これらの絶唱若句のぬしに
   ならんと詞をうつとても爰にいたる
   ましくや只自然の所ならん

陽炎や壁のぬれたる夜の雨
    許六

   雨後の朝日うらゝかにさして濡たる
   壁に陽炎のきらきらとうつるありさま
   何となく幽にして真に春の気色なる哉

夕風に何吹あけて朧月
    北枝

   百尺の竿頭つたひて
   得たる妙手段

此ころの垣の結めや初しくれ
    野坡

   あるへき所を見つけて
   よく不易流行ともに得たり

目には青葉山郭公はつ鰹
    素堂

   鎌倉の吟行当意即妙にて
   三段切の絶頂也

冬籠夜昼竹の嵐哉
    杉風

   浅き砂川

春雨のけふはかりとて降にけり
    鬼貫

   何となく述たること真に
   春雨の動かぬ所七もしに言外の妙たり
   これらハ時節の景気其時に当て
   本意有へし

凩の果は有けり海の音
    言水

   世こそつて
   凩の言水と称す
   則碑の銘に残セり

裏散つ表をちりつもみち哉
    木因

   やすらかに言ひなかして
   えもいへぬ景色の
   うかひそへり

春の雪雨かちに見ゆるあハれ也
    一笑

   かゝる所のあハれをつたへて
   又あハれ他念なし

唇に墨つく児のすゝみ哉
    千那

   篇突に曰わつかなる所に
   手柄を顕し侍るこそすゝみの
   情なれとて翁も一夏一句と感給へるとそ

分別をはなれて海の月夜かな
    露川

   心も詞も及ぬ海原をてらす月のにほひを作す
   彼都良香か
   三千世界ハ眼ノ前ニ尽ヌと
   詠たるたくひ也

月夜にも闇にもならす雪吹かな
   秋之坊

   為に我をわするゝ
   此僧常は閉口に似たり

  
それてこそ命をしけれ桜花
   智月

   上五もし
   言語道断の所也

麻からを踏をる背戸の月見かな
    浪化

   即興体に似て撫民の
   意あり上人の慈悲を称すへし

うらやましおもひ切時猫の恋
    越人

   浪化君の聞書に曰
   定家卿の
   うらやまし世をも忍ハす
   のら猫のといふによりて

麦喰し雁とおもへとわかれ哉
    野水

   随聞記に曰
   あるときはありのすさみに憎かりし
   なくてそ人は恋しかりけり
   是に仍て

うき時は蟇の遠音も雨夜哉
    曾良

   蛙合に曰うき時ハと言ひ
   出して蟇の遠音をわつらふ
   草の庵の夜の雨に涙を添へて
   哀ふかしわつかの文字をつんて
   かきりなきこゝろを画セりとそ

梅か香や分入里は牛の角
    句空

   梅のけたかき所言すしてあり
   下五もし十目をおとろかす

下京や雪積うへの夜の雨
    凡兆

   浪化君の聞書に曰上五もし
   置かねたるを翁のかふむらしめ給ひ
   ける誠に其所を得て殊勝に覚侍る

鼻紙のあいたにしほむすみれ哉
    その

   是式部か風情真ニ菫なるへし
   手もとのことにして誰か
   是をおもハさらん

日枝まても登れ時雨のはしり船
    李由

   其風景おもしろきにたへて
   心せんかたなく願たるさまならん

夕暮も曙もなし鶏頭華
    巴静

   秋の夕のあハにもつかす曙の
   はなやかもなしと鶏頭のふつゝか
   なる姿をそのまゝに述て意にそこ
   はくの清新を得たり

鹿の声かすかに二日月夜かな
    五竹

   幽に聞えかすかに
   見へて感情不斜

暁や灰の中よりきりきりす
    淡淡

   此子か行過たる中に
   此実境あらんとハ

鶏の声にちりけり桃の花
   春波

   鶏合のかちときを作ル
   いきほひありて
   ちらし物珎し

青柳や細き所に春の色
    秋瓜

   曲節自在

落鮎や日に日に水のおそろしき
    千代尼

   水を家と見なしたる
   遊漁も零落の此日ありて
   観相こゝに画たり

蛬我きく時は里恋し
    麻父

   切切トメ不聞ニ
   都恋しき深草の里
   これらの俤をそなへ
   ハ字の働に言外の
   所ありて旅情甚あハれ也

一ツ家の灯は中にしてしくれ哉
    鳥酔

   一点の漁燈杳靄ノ中
   これらに似かよひ風景
   さひしうして
   たゝならぬ味あり

灯火を見れは風あり夜の雪
    蓼太

   寝さめなとになかめて
   心を澄したる此夜あらん

待宵や寝に行人もにくからず
    見風

   遊ふ中より翌の月を思ひ
   独寝に行姿も見へて下五文字
   よく働真に
   滑稽おかしみ也

しハらくハ鳥なき里や春の雪
    凉袋

   しハらくとハ雪の霽を待かねて
   百千の声々誠に春の字の
   働き感語浅からす

昼顔やとちらの露も間にあハす
    也有

   夕顔朝顔の過去未来を
   含て炎暑を顕したる
   作意濃かなり

夕暮をこらへこらへて初しくれ
    柳几

   しハしハ秋のさひしさも
   又おもしろき物に打かハりたる
   時雨の風体眠りのさめたるかことし

松風の落こむをとや天の河
   門瑟

   歌仙にも遍昭
   誉たるたくひならんか

日最中の花静也虻の声
    麦水

   花のうハ気ハ世の人に預ケて
   趣向を改しは泥中の蓮のことし

山陰や煙の中に梅の花
    闌更

   見つけてそのまゝ作りたりや
   春景きつと眼中にあり

臘八や宵のあかりハまよひ物
   既白

   宵といひて暁出山のさま
   殊にあきらか也その宗旨の
   身柄にて取分情厚し

梨の花咲て昼鳴蛙かな
    康工

   ならふるものにもあらねと世上の評を
   請んため爰に毫を投しぬ

今植し竹に客あり夕すゝみ
    柳居

   人にも見セたきをりから客来て
   心と共に涼しく興セし風情尤も優長也

鶯のいくつも捨て初音かな
    廬元

   大事に言ひなをしたる
   さまもおかし鶯のはつ音と
   作りなから一字の新しみを
   はたらかセり

柴船の立枝も春や朝霞
   希因

   死したる物を
   活しその姿眼前に
   ありありとうつり風景自然と有て
   しかも立枝春の字いつれも働き
   優に聞へておのつからたけ高し

かんこ鳥我もさひしひか飛て行
    麦林

   その心さひしみよりおこりて聞人もさひし
   鳥もさひし天性不思議
   神境と見へたり

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