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尾崎康工
『俳諧百一集』(康工撰)
古池や蛙飛こむ水の音
| 芭蕉 |
いかなる意味や有けん吟してなみたを流し | |
唱てさみしみ自然とあらハる中々申すまても | |
なし凡庸の及ふ所にあらす玄々妙々にして | |
独歩也信すへし仰へし | |
元朝や神代の事も思るゝ
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守武
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此神職や古代にあつて | |
此源を得たり | |
元朝の見る物にセん富士の山
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宗鑑
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今の世をたくらへて遠き | |
世の調を見るへし | |
月やあらぬ我身ひとつの影法師
| 貞徳
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名家の手段 | |
白露や無分別なる置所
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宗因
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為に手の物を落す | |
稲妻やきのふハ東けふは西
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其角
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秋の夜のかハり | |
安きに翌や又いかならんと世のさまを | |
観しあるは通ふ心のあまた有人を | |
恨たる詞を残し千万の意味を含て | |
絶作也 | |
蒲団着て寝たるすかたや東山
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嵐雪
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象りの姿にして誠に | |
平安の景也見る度に | |
恋し聞たひに | |
ゆかし | |
応々といへとたゝくや雪の門
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去来
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随聞記に曰 | |
丈艸支考曲翠正秀其角許六おのおの称嘆 | |
あれとも爰に略ス去来答曰情なき誉やう共也自賛に | |
曰此句に自然と寂の見へぬるを第一と思ひ侍り惣て | |
翁の句ハ強も狂たるも厳重なるもいつれにも此寂の | |
附たるを皆うらやむ所也とそ | |
取つかぬちからてうかふ蛙かな
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丈艸
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爰におのれをわすれたる | |
此人の悟道を尊へし嗚呼 | |
凩の一日吹て居りにけり
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涼菟
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有のまゝに述たること其身の | |
粉骨也これらの絶唱若句のぬしに | |
ならんと詞をうつとても爰にいたる | |
ましくや只自然の所ならん | |
陽炎や壁のぬれたる夜の雨
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許六
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雨後の朝日うらゝかにさして濡たる | |
壁に陽炎のきらきらとうつるありさま | |
何となく幽にして真に春の気色なる哉 | |
夕風に何吹あけて朧月
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北枝
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百尺の竿頭つたひて | |
得たる妙手段 | |
此ころの垣の結めや初しくれ
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野坡
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あるへき所を見つけて | |
よく不易流行ともに得たり | |
目には青葉山郭公はつ鰹
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素堂
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鎌倉の吟行当意即妙にて | |
三段切の絶頂也 | |
冬籠夜昼竹の嵐哉
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杉風
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浅き砂川 | |
春雨のけふはかりとて降にけり
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鬼貫
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何となく述たること真に | |
春雨の動かぬ所七もしに言外の妙たり | |
これらハ時節の景気其時に当て | |
本意有へし | |
凩の果は有けり海の音
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言水 |
世こそつて | |
凩の言水と称す | |
則碑の銘に残セり | |
裏散つ表をちりつもみち哉
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木因 |
やすらかに言ひなかして | |
えもいへぬ景色の | |
うかひそへり | |
春の雪雨かちに見ゆるあハれ也
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一笑 |
かゝる所のあハれをつたへて | |
又あハれ他念なし | |
唇に墨つく児のすゝみ哉
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千那
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篇突に曰わつかなる所に | |
手柄を顕し侍るこそすゝみの | |
情なれとて翁も一夏一句と感給へるとそ | |
分別をはなれて海の月夜かな
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露川
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心も詞も及ぬ海原をてらす月のにほひを作す | |
彼都良香か | |
三千世界ハ眼ノ前ニ尽ヌと | |
詠たるたくひ也 | |
月夜にも闇にもならす雪吹かな
| 秋之坊
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為に我をわするゝ | |
此僧常は閉口に似たり | |
| 尼
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それてこそ命をしけれ桜花
| 智月
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上五もし | |
言語道断の所也 | |
麻からを踏をる背戸の月見かな
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浪化
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即興体に似て撫民の | |
意あり上人の慈悲を称すへし | |
うらやましおもひ切時猫の恋
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越人
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浪化君の聞書に曰 | |
定家卿の | |
うらやまし世をも忍ハす | |
のら猫のといふによりて | |
麦喰し雁とおもへとわかれ哉
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野水
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随聞記に曰 | |
あるときはありのすさみに憎かりし | |
なくてそ人は恋しかりけり | |
是に仍て | |
うき時は蟇の遠音も雨夜哉
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曾良
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蛙合に曰うき時ハと言ひ | |
出して蟇の遠音をわつらふ | |
草の庵の夜の雨に涙を添へて | |
哀ふかしわつかの文字をつんて | |
かきりなきこゝろを画セりとそ | |
梅か香や分入里は牛の角
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句空
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梅のけたかき所言すしてあり | |
下五もし十目をおとろかす | |
下京や雪積うへの夜の雨
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凡兆
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浪化君の聞書に曰上五もし | |
置かねたるを翁のかふむらしめ給ひ | |
ける誠に其所を得て殊勝に覚侍る | |
鼻紙のあいたにしほむすみれ哉
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その
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是式部か風情真ニ菫なるへし | |
手もとのことにして誰か | |
是をおもハさらん | |
日枝まても登れ時雨のはしり船
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李由
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其風景おもしろきにたへて | |
心せんかたなく願たるさまならん | |
夕暮も曙もなし鶏頭華
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巴静
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秋の夕のあハにもつかす曙の | |
はなやかもなしと鶏頭のふつゝか | |
なる姿をそのまゝに述て意にそこ | |
はくの清新を得たり | |
鹿の声かすかに二日月夜かな
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五竹
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幽に聞えかすかに | |
見へて感情不斜 | |
暁や灰の中よりきりきりす
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淡淡
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此子か行過たる中に | |
此実境あらんとハ | |
鶏の声にちりけり桃の花 | 春波 |
鶏合のかちときを作ル | |
いきほひありて | |
ちらし物珎し | |
青柳や細き所に春の色 |
秋瓜
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曲節自在 | |
落鮎や日に日に水のおそろしき |
千代尼
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水を家と見なしたる | |
遊漁も零落の此日ありて | |
観相こゝに画たり | |
蛬我きく時は里恋し
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麻父
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切切トメ不レ堪レ聞ニ | |
都恋しき深草の里 | |
これらの俤をそなへ | |
ハ字の働に言外の | |
所ありて旅情甚あハれ也 | |
一ツ家の灯は中にしてしくれ哉
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鳥酔
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一点の漁燈杳靄ノ中 | |
これらに似かよひ風景 | |
さひしうして | |
たゝならぬ味あり | |
灯火を見れは風あり夜の雪
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蓼太
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寝さめなとになかめて | |
心を澄したる此夜あらん | |
待宵や寝に行人もにくからず
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見風
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遊ふ中より翌の月を思ひ | |
独寝に行姿も見へて下五文字 | |
よく働真に | |
滑稽おかしみ也 | |
しハらくハ鳥なき里や春の雪
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凉袋
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しハらくとハ雪の霽を待かねて | |
百千の声々誠に春の字の | |
働き感語浅からす | |
昼顔やとちらの露も間にあハす
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也有
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夕顔朝顔の過去未来を | |
含て炎暑を顕したる | |
作意濃かなり | |
夕暮をこらへこらへて初しくれ
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柳几
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しハしハ秋のさひしさも | |
又おもしろき物に打かハりたる | |
時雨の風体眠りのさめたるかことし | |
松風の落こむをとや天の河
| 門瑟
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歌仙にも遍昭 | |
誉たるたくひならんか | |
日最中の花静也虻の声
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麦水
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花のうハ気ハ世の人に預ケて | |
趣向を改しは泥中の蓮のことし | |
山陰や煙の中に梅の花
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闌更
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見つけてそのまゝ作りたりや | |
春景きつと眼中にあり | |
臘八や宵のあかりハまよひ物
| 既白
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宵といひて暁出山のさま | |
殊にあきらか也その宗旨の | |
身柄にて取分情厚し | |
梨の花咲て昼鳴蛙かな
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康工
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ならふるものにもあらねと世上の評を | |
請んため爰に毫を投しぬ | |
今植し竹に客あり夕すゝみ
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柳居
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人にも見セたきをりから客来て | |
心と共に涼しく興セし風情尤も優長也 | |
鶯のいくつも捨て初音かな
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廬元
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大事に言ひなをしたる | |
さまもおかし鶯のはつ音と | |
作りなから一字の新しみを | |
はたらかセり | |
柴船の立枝も春や朝霞
| 希因
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死したる物を | |
活しその姿眼前に | |
ありありとうつり風景自然と有て | |
しかも立枝春の字いつれも働き | |
優に聞へておのつからたけ高し | |
かんこ鳥我もさひしひか飛て行
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麦林
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その心さひしみよりおこりて聞人もさひし | |
鳥もさひし天性不思議 | |
神境と見へたり |
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